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特集・コラム 2020年3月7日(土)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第25回 画面に吸引される感覚「わんぱく王子の大蛇退治」

(C) 東映

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2019年11月2日、第32回東京国際映画祭で「アニメ映画史、最重要変化点を語る」として、昭和末期までの歴史を「白蛇伝」「エースをねらえ! 劇場版」「AKIRA」という3本にまで絞りこむシンポジウム「TIFFマスタークラス」を行った。その選定時、最後まで迷ったのが「わんぱく王子の大蛇退治」であった(1963年3月24日公開)。この2月5日に35mmネガスキャンテレシネ4KマスターによるBlu-ray BOX(シナリオ、絵コンテなど同梱)が出たことを記念して、この映画に対する思い入れと意義を語っておきたい。
 まず本作は明確に記憶している最初期の「長篇漫画映画」である。おそらく試写会に当たったようで、幕間で緞帳(どんちょう)が揺れていた記憶ごと鮮明に残っている。縫い取りは孔雀だった気がして、同時に「ピーコック劇場」というキーワードも浮かぶ。検索すると、実は1963年11月4日から1年数カ月にわたり、東映の資本で設立されたNET(現:テレビ朝日)で大丸デパートの一社提供により、東映動画(現:東映アニメーション)の長篇を分割放送する番組名であった。当の「わんぱく王子」も公開約1年後の64年3月16日から3回にわたり放送されている。となれば、大丸関係の試写会だったのかもしれない。
 さて、自分は4歳か5歳になってすぐの未就学児童だったのに、なぜこんなに鮮明に記憶しているのか。それは「スクリーンの中に呑み込まれる」という体験をしたのが、初だったからだ。まさに「魂消る現象」の原点と言える。だから試写会場の空間ごと記憶に焼きついたのだ。その体験をした瞬間も明確に記憶している。「山あいから大蛇の背びれが垣間見えるカット」で、これは「怪獣映画的ワンダーの初体験」でもある。
 東映動画の歴史中、初めて作画監督という役職を設立して、もりやすじが画風の統一を図った作品としても知られている。演出(監督に相当)は実写出身の芹川有吾で、その映画的な工夫の数々が功を奏したことで、「演出主導」への転換点となったともされている。演出助手は高畑勲と池田宏なので、後年に対する影響も大きいし、筆者が追い続ける「日本製アニメの映画志向」で重要なピースにも該当するのである。
 ことにクライマックスの「大蛇退治」のシークエンスが始まったとたん、演出の方向性がガラリと変わる点が、何度観ても印象深い。主人公スサノオは大蛇と8回戦することになるのだが、芹川演出はその基本をアメノハヤコマという名の天駆ける馬に乗った「空中戦」と決めたのだった。そのシーンまでは「マッスよりフォルム」という美術の方針で、舞台演劇に近い平面レイヤーを重ねたような空間を作っているが、空中戦への展開につれて、立体的な空間が続々と現れていく。
 さらにそこから演出のモードが変わる点として、「間接表現」の多用と「時間感覚の操作」も要注目である。アニメーション作画は手間がかかるため「必要なもの(主にキャラクター)を必要なだけ写す」という方向になりがちだ。しかし大蛇が出るまでは、「演出として盛りあげるために必要なカット」を驚くべき多数積みあげているし、時間感覚にしても「緩急」を意識している。
 先述の自分が「引きこまれたカット」に至るまでは、暗めの山あい、イバラのような刺々しい植生、雷光に怪しい風、地震が起きた結果、崩れた木々や岩が川に落ちて水が渦巻くなどなど、動くキャラクターのいない「空舞台」含め、心理表現を置き換えた間接表現が頻出する。問題の背びれカットも、山の大きなサイズ感を実感させた直後、岩の落下音がして、そこに注目を呼びこむ。一瞬安心させた後、「落下させた原因」が暗い中に登場する。まだ画面に全貌が登場していない大蛇の背びれのごく一部が、黒のシルエットで山のさらに向こうをゆっくり通過する。
 その緩急は呼吸と言っても良くて、不安と想像力をたっぷりと喚起する。特に時間的成分である「間合い」によって、脳内にまだ見ぬ大蛇のサイズ感と恐怖心がわき上がり、描かれた紙のサイズを遙かに超えたイメージが形成される。これが「演出の力」なのだ。それによって、ぐっと画面へのめり込んだというわけなのだ。
 そこから展開する大蛇退治の素晴らしさは、何万文字でも書き続けられるが、今回は未見の方のため簡単にしておく。みどころとしては、左右以外に駆使した画面の方向性の多彩さと変化であり、宙を飛ぶスサノオの気持ちに同期したカット割りだ。アクション同士をつなぐカットだけでなく、ダブルアクションや瞬間的なスローなど、リズムとテンポを重視したフィルムの流れなのだ。大塚康生と月岡貞夫を中心とした担当アニメーターたちも臨場感あふれる剣技を描き、槍を持ち替える一瞬だけ槍を複数描いたオバケが出るとか、剣をふるう数コマだけ目を思わず閉じてしまうなど、コマ単位でみどころ満載なのである。
 本作はそれまでのキャラクターデザインの方向性を見直し、グラフィカルでモダニズム風のシンプル化を図りつつ、和風のハニワやコケシなどの風味を足すことで「日本人にしか作れないアニメーションキャラ」を完成させた。この方向性の支配力は非情に大きい。やがて世界名作劇場や、スタジオジブリ作品なども含めて、以後さまざまな作品へと継承されていく画風の原点は、「わんぱく王子」なのである。
 さらに大蛇に関しては、「アニメーションでしか描けない怪獣表現」という点で、もっと注目してほしい、これを発展させた何かが見たいと願っている。龍というよりはワニやヘビなど爬虫類の意匠を借りつつ、横向きと正面の印象が大きく違う(平たく感じられる)ようにアレンジした点もいい。特撮の造型物やCGでは不可能な「虚構の立体感」なのである。身体の色を変えてから放たれる火焔や、宙を飛ぶハヤコマとスサノオを食べようとする緊迫感を盛りあげつつ、槍が頭部から上顎を貫いたときの痛快さなど、「漫画映画の中にしかないサスペンスとカタルシス」が満載なのは、この「虚構の実在感」があるためなのだ。
 さて、この映画にはさらに重要な「自分の原点」が宿っていることが、後々分かった。自分のエフェクト・アニメーションへの興味の原点が「宇宙戦艦ヤマト」の石黒昇チーフディレクターから聞いた話という話は、あちこちで書いてきた。その恩人がプロをめざす動機はディズニーの「眠れる森の美女」だということも……。
 そして70年代も後半になって再公開されたその作品を見たとき、激しい衝撃を受けたのだ。イバラのような森をドラゴンの吐く炎がナメていくカットなどなど、「わんぱく王子」で自分が好きなカットへの影響が判明したのである。このようにして、人の価値観は「地下水脈」みたいな無意識世界で連綿とつながっている。その水脈、ネットワークを可能なかぎり突きとめ、明らかにしていくのが今後の仕事の中心だと自認する昨今である(敬称略)。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

作品情報

わんぱく王子の大蛇退治

わんぱく王子の大蛇退治 Check-in0

はるか昔の神々の時代、オノゴロ島に住むわんぱく王子・スサノオ少年は、両親イザナギ・イザナミのもとで楽しく暮らしていた。ところが突然、母イザナミが亡くなり黄泉の国へ行ってしまう。母の死を受け入れら...

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