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特集・コラム 2022年11月11日(金)20:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第42回 「空の大怪獣ラドン」3原色素材による再現性向上

(C) 1956 東宝

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旧作の4Kデジタルリマスターが、着々と進んでいる。銀塩によるフォトケミカルの記録には、過去考えられていた以上の情報量が潜んでいた。またスキャン、補正技術の向上が進んだため、本来あるべき姿に復元される古典も少なくない。
 そして2022年12月16日から「午前十時の映画祭12」では、日本初のカラー怪獣映画「空の大怪獣ラドン」(1956)、その4Kデジタルリマスター版が上映される。このリマスターにはオリジナルネガに加え、新たな「3原色素材(白黒ポジフィルム)」が適用され、「色彩の再現性」で驚くべき修復効果が得られて、大きな話題を呼んでいる。
 先般、東京現像所におけるその修復プロセス見学の機会をいただいた。今回は「そもそも色とは何か」の問題提起をこめつつ、その意味性をアニメの歴史も絡めつつ解説してみたい。

3原色のフィルム缶(筆者撮影)

3原色のフィルム缶(筆者撮影)

(C) 1956 東宝

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3原色合成の様子(筆者撮影)

3原色合成の様子(筆者撮影)

(C) 1956 東宝

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「3原色保存」の何がすごいのか。実はフィルム、印刷、あるいは絵画や建築さえも、あらゆる色素は必ず経年劣化する。だからネガに記録されている像が、撮影されたときの色彩とは限らないのだ。今回のリマスターは「オリジナルカラーネガ」つまり撮影時、キャメラに入っていたフィルムを4Kスキャンしているのだが、3層に分かれて記録された光の3原色「赤(R)・緑(G)・青(B)」のうちBに顕著な劣化が見られたという。
 現在はカラーグレーディングの技術が進み、カラリストが専門的な知見をもとに劣化分を想定して調整する。デジタル処理の恩恵がある一方、いかようにでも調整できるため、本当に正しいかどうかの保証はない。それゆえ監督、撮影監督が立ち会うことが多いのだが、作品が古いとそれが難しいこともある。
 ところが「今回は『ラドン』の3原色に分解されたマスターポジを参照しています」と東京現像所でフィルム缶を見せられたとき、心の底から驚いた。つまり合計4本分のフィルムを4Kスキャンしたのだ。3原色ポジフィルムは白黒なので、銀塩のみで色素は存在せず、劣化もない。つまり66年前、公開当時の色がそのまま正確に保存された素材である。「ラドン」と「日本誕生」(59)のみ3原色保存されていたが、経緯は定かではない。

(C) 1956 東宝

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復元プロセスを図に示す。もちろんこの手順でリマスターすることも可能だったが、いくつか問題が存在している。ネガからコピーされたポジ像は1世代劣化しているし、3本のフィルムが個別に収縮し、ダメージもあるため、像のズレる部分が出てくる。古いカラー印刷で見られる「版ズレ」のような現象である。
 今回は「オリジナル色彩のレファレンス」として使用した点に、大きなアドバンテージがあった。大前提として「たとえ劣化が無くても、色は簡単に変わってしまうものだ」が意外と共有されていない。印刷物やネットに変な色の写真が多く出回っているのが、その傍証だ。これを専門的に「色が転ぶ」と言う。
 特にアニメファンはセル画やフィギュアなどすでに彩色されたものに接しているので、「固有の色」(本物の色)があると思いこんでいる。しかし「色彩」は光源の色温度によって変化する。そして物体にあたった光の一部が吸収されて反射した光が網膜に届き、脳が補正して認識したのが「色」なのである。デジタル制作以後のアニメは、これを応用してシーンの光源や背景とのマッチングを考慮して、カット毎に色彩設計の担当者がキャラクターを「色変え」して心理的に演出効果を高めている。
 だから「当時はこのように設計されていた」と示されたレファレンスに沿って、カット毎にカラーグレーディングされた今回の4Kデジタルリマスター版は、単に解像度が上がったことよりも、「より当時の色彩設計に近づいた点」で対象により接近した効果が期待できるのである。事実、メインタイトル部を見て驚いた。ロゴ部の色彩の鮮やかさもさることながら、タイトルバックに使われているガラスを通した光――グリーン系の色だと思っていたのが、実は非常に鮮明なブルー系だと分かった。

(C) 1956 東宝

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(C) 1956 東宝

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さらに驚くのは序盤、日本家屋に侵入してくるヤゴの怪獣メガヌロンのサンプル画像である。なんとなく全体にくすんだ茶色だと思っていたが、特に背中の突起など鮮やかに塗り分けられ、複眼もブルー系で不気味さが何倍にも感じられた。そしてクライマックス、福岡の岩田屋デパート周辺でラドンが大暴れするカットでは、瓦屋根や建築の足場など美術のパーツごとの色が明確になり、ミニチュアセットの細やかな作り込みが迫力となっているように感じられた。
 映画は設計され、構築された「世界」への没入感次第で、まったく違ったものに感じられる。今回の「ラドン」リマスターは「色彩設計」と明暗のダイナミックレンジが向上したことで、4K解像度以外の効果が大きい。「どのような情報精度がどう心理的に作用するか」の良い実例になるのではないかと期待している。

以下では「空の大怪獣ラドン」とカラー映画の歴史を、参考として簡潔に補足しておきたい。
 1954年の怪獣映画「ゴジラ」がヒットし、円谷英二が特技監督に昇進して東宝では特殊技術課による「特撮スペクタクル」で集客する空想科学映画が定期制作されるようになった。日本映画の観客動員数は右肩上がりの黄金期である一方、「ゴジラ」劇中にテレビ中継が描かれているように、無料のテレビ放送が追撃していく。
 アメリカではすでにテレビ対抗策として、映画のカラー化、ワイドスクリーン化が始まり、日本にも輸入されて「総天然色」の惹句で話題を呼んでいた。その流れを踏襲した日本映画界でもカラー化の機運が高まる。東宝ではまず香港(当時英国領)との合作「白夫人の妖恋」を56年7月5日、初のカラー特撮作品として制作する。これは円谷英二特技監督によるクライマックスの大洪水が見せ場で、莫大な光量を必要とする高速度撮影のため高温となったミニチュアセットが発火したと伝えられている。その国際的な成功は、後に同じ原作による東映動画初の長篇漫画映画「白蛇伝」(58)を生む契機にもなった。
 「ラドン」はこの流れで「日本初のカラー怪獣映画」として制作され、56年12月26日に公開された。ジェット戦闘機の時代に対応した趣向で、超音速飛翔して自衛隊機と空中戦を行う飛行タイプの怪獣が出現したのである。「ゴジラ」が東京、「ゴジラの逆襲」が大阪を舞台にしたのに対し、「ラドン」では博多、阿蘇山と九州が破壊シーンの地に選ばれた。井上泰幸ら特殊美術チームが博多にロケハンに赴いて岩田屋デパートを中心とする街並みを細密に観察、スチル撮影、スケッチした上で特撮ステージに精密再現した。また、完成したばかりの西海橋への集客に貢献するなど「コンテンツツーリズム」の源流のひとつにも位置づけられる。
 さて、こうしたチャレンジを多数含んだ映画フィルムの「カラー化」は、ハリウッドでは1910年代からすでに開発が進んでいた。詳細は略すが、2色法など不自然な発色の志向を経て、光の3原色に分解して白黒フィルムに記録する3色法「テクニカラー」がその色彩の美しさで決定打となる。そしてディズニー社は世界恐慌を経た32年に2年間の独占使用権を獲得し、「シリー・シンフォニー・シリーズ」を大ヒットさせて、37年に初のカラー長編映画「白雪姫」への道筋をつけた。実写よりもアニメーションに親和性があったのは、あらかじめ設計された画をコマ単位で3原色分解で撮るためNGが出にくく、フィルムコストを抑えられるからである。
 テクニカラーは高品質ではあるが、技術的にもコスト的にも難易度が高い。そして次第に1本のフィルム上に色素を積層した方式のカラーフィルムに取って変わられていった。「ラドン」もその代表であるイーストマン・コダック製ネガがオリジナルであり、当時は東洋現像所(現:IMAGICA)が現像処理にあたった。4Kリマスターの素材もそのネガから最も鮮度の高い像を抽出している。
 こうした映画黄金期の輝きを宿したオリジナルネガに、テクニカラー的な3色分解白黒マスターポジを組み合わせたハイブリッド的リマスターで、日本の怪獣映画としては前代未聞の再現性が得られたのである。その意義は大きい。
 この「ラドン」の事例でも分かるとおり、「解像度」は単なる1ファクターに過ぎないことは心しておきたい。より支配的なものが別にないか、常に考察することが肝要だ。アニメも特撮も、映画自体も「技術の産物」を「夢」に転化するメディアであるがゆえに、歴史的・科学的な知見を組み合わせたアプローチを考え、対象に接して「より正確に、よりビビッドに」鑑賞することを考える、よい機会ではないだろうか。

(C) 1956 東宝

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<上映情報>
12月16日から「午前十時の映画祭12」開催劇場にて公開
「空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版」

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【上映日程】
12月16~29日:グループA劇場
12月30日~2023年1月12日:グループB劇場
https://asa10.eiga.com/
※開映時間は<午前10時に限定せず>それぞれの劇場の判断で<午前中の上映開始>となります。 そのため、上映開始時間は劇場ごとに、また作品によっても異なります。また、鑑賞料金も各劇場が設定した料金となりますのでご注意ください。ご鑑賞前に各劇場の公式サイトなどでご確認をお願いいたします。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

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