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特集・コラム 2024年4月2日(火)19:00

ドレスデザイン・長森佳容に聞く、線と色の表現【「ルプなな」リレーインタビュー第10回】

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第10回はドレスデザインと総作画監督を担当した長森佳容さんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)

線で描くか、色で描くか

――長森さんが今回参加された経緯をお聞かせいただけますか。

長森:アニメーションプロデューサーの八田(正宣)さんから話がありました。スタジオKAIさんという意味だと「骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中」の流れもあるかと思います。中世イメージでドレスをたくさん出したい作品とのことで、アニメ用に見せやすいデザインで描ける人を探していたらしく、自分に話がきました。

――長森さんは「骸骨」ではモンスターデザインを担当されていましたよね。役職がまったく違うのですが……。

長森:(笑)。もう10年以上前から、ホビー系などでモンスターデザインをやっていて、「骸骨」のときもその流れがあったんです。

――ドレスデザインのお話があったときはいかがでしたか。

長森:面白そうだなって。服飾に特化した役職はやったことがなかったから、やってみたいと思いました。

――「ルプなな」はかなり着替えが多い印象ですが、これほど衣装替えのあるアニメのご経験はありましたか。

長森:いや、なかったです。本当にまれだと思いますよ。例えばキャラクターがコスプレするような話数があって、そこで必要な衣装があるならば、そのぶんをつくるかもしれませんが……。そもそもコスチュームって、イコールキャラクターの記号として固定されることが多いんですよ。

――コスチュームも含めて、キャラクターのアイデンティティであると。

長森:そうです。今回は、それをあえてしないわけですからね。それに着替えを用意すればするほど、その管理するのが大変になってくるんです。とくに今回は「髪型はこっちで、着ているものはこっち」みたいな組み合わせもあったので……。

――これだけの数があると、ドレスデザイン制作は相当大変だったのではないですか。

長森:でも、はじめての職種だったので、楽しんでやれました。これが1年ぶっ通しで、しかも1クールで15点以上となったらネタ切れしてきて悩んだと思うのですが、そこまでではなかったですし。あと、発注のときに「こういう意図で使います」と聞けていたので。用途がはっきりしていれば、作りやすいんですよね。そういう意味では、逆に困ったのが普段着用のドレスでした。汎用的なものなので。

――ドレスデザインの制作工程はどんなものだったのですか。

長森:大貫(健一)さんがリーシェの素体を描かれているんですよ。それに衣装を乗せるかたちで制作していきました。ただ、素体は腕が腰の真横にきていたので、それにドレスを着せると腰回りが分からなくなるんです。そのときは手を上げたかたちに描き換えたりもしていました。

――アニメーターがわかりやすいようにしているんですね。

長森:さらに髪型は大貫さんだけではなく、また別の方が描かれていた場合もあったので、ドレスをつくるときにくっつけてみたりして。そのうえでひとつの絵として設定をつくりました。頭はこっち、ドレスはこっちと設定がばらけてしまうと、作業者の方が混乱して、事故のもとになってしまうので。

――ドレスデザインをするさい、ポイントになったのはどんなところですか。

長森:まずはシルエットですね。パーティー用などの公の場に出るところは、ふわーっと中に骨組みが入っているんです。ドーム状を意識するようにして、おしりの方にボリュームがくる。で、普段着はそこの骨組みが入っていないので、もう少しストレートにストンとしたかたちで。その2パターンを大きく意識して、映えるようにしたつもりです。

――なるほど。

長森:次に省略ですね。装飾が細かいので、いかにカロリーを低くするように省略するかで、アニメーターの労力も変わりますから。とくに柄ですね。ドレスのレースや刺繍(ししゅう)って細かいじゃないですか。いまだったら貼りこみ素材を撮影で貼ってもらったりして、柄を派手にすることもできるので、「貼りこみにするか」という話もあったのですが……。リーシェはよく動きまわるので、それだと撮影さんが大変になってしまうから、線の形と色とでどうにかやりきろうと。

――2Dの貼りこみ素材にはあえてせず、線と色だけでドレスを表現しようとしたんですね。

長森:1話の数カットだけなら貼りこみでやっていたと思うのですけど、毎話で着まわしたりもするし、スケジュールもしんどくなっていくものだし……。

――撮影は最後の工程で、割を食いやすい役職ですからね。だからアニメーターさんと色彩側で完結するようにしたと。

長森:そうです。だからこそ、それっぽく見えるように簡略化しました。あと、省略といえば中間とアップと思いきり引いたサイズで、同じものであってもどう見せるかも大切な点でした。たとえば、真珠の玉がいくつかついているとします。それを几帳面にやると大変なので、カメラが引いたときはもう二重線にしてしまうとか。
 同様に引いたときに実線にするか色トレス(※線の色を黒ではなくほかの色にする手法)にするかも考えないといけなくて。実線で細い線にすると黒くつぶれて、一本の線にしか見えなくなる。そうすると視聴者からは、違ったもののように認識されてしまう可能性もある。逆に色トレスなら、(隣とは違った色の)主線で塗れば、線が目立つ色になるから問題ないだろうと。それはもうベースの色を見てどうするかなんですよね。

――寄り引きの省略はおいておいて、実線と色トレスではそもそも見た感じも変わるものなのですか。

長森:実線だと硬さがでてくるんですね。たとえば柄を実線にしてしまうと、くっきりした形になるので、あまりやわらかく見えなくなる。そもそも最初は基本的に色トレスでいこうと思っていたんです。ただ、色彩設計の中村(千穂)さんの手で実線に変える場合もあって自分もその考え方に対応していくようになりました。

――ドレスの色についてはかなり中村さんと打ち合わせをされていたのですか。

長森:そうですね。そもそも自分のほうでも、先に色のイメージを考えながらデザインするんです。最初にいわた(かずや)監督と打ち合わせをして、「今回はキャラのイメージに合わせた色にしましょう」みたいな話もしつつ……。その後、中村さんと話して色を決めていく、という順番でした。

――ドレスには影もかなりついていますが、このあたりも大変だったのではないでしょうか。

長森:ハッタリがきくことを前提にすると、影の線量はあまり減らせないんです。しわに基づいたかたちで影をつけることは優先させて。ものによっては、本当にしわに沿った影がないとぺったりとしてしまうので。

――立体感を出すための影なんですね。

長森:もっとざっくりつけてもいいのだと思いますが、そうすると(立体感が)なくなるんですよ。影付けは原作の挿絵とコミカライズとでもそれぞれ違うので、アニメのガイドラインとしてはこのぐらいと設定で定めさせてもらっていました。

鬼門だったリーシェの髪

――ドレスデザインをするにあたって、監督からはどのような指示があったのですか。

長森:まず、原作やコミカライズで存在するものは、それに合わせていきたいと。でもそれだけでは数が足りないので、ないものは参考を用意してもらうんです。「これとこれを組み合わせた感じ」とか。あと、基本的にリーシェはあまり肌を露出しないでいきたいと言われていました。

――そうだったんですね。

長森:胸元も極力開いたようには見せないかたちにしてくれと。もし見えるようだったら何かで隠すように、チョーカーをつけたりしてほしいと。たとえば礼拝堂に行く黒いドレスは、胸元を首元まで閉めているかたちにしたり。ただ、ベタ塗りだと重苦しいので……鎖骨のあたりを薄くして。これは一応シースルーになっていると指示を入れさせてもらったんですね。そうすることで、少し軽い感じにもなりますから。

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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長森:この黒のドレスはけっこう気に入っているんです。髪に付けているアクセサリーなんかは参考をもらっていたので、ベースはありましたが、かなりオリジナルな要素を入れこみました。ブローチも胸元を隠すためにやっていました。礼拝堂のシーンですから、喪服みたいなイメージで考えると、ちょっと重苦しいものをつけてもいいかなと思って。

――最初に描かれた衣装はどれになるのですか。

長森:まずは婚約破棄のときに着ていたオレンジの衣装ですね。そのあとに原作1巻のカバーに描かれている原作でポピュラーな衣装。

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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長森:これはもう原作のままで作画がしやすいようにした感じです。ぱっと見た目は悪くないようにできたんじゃないかなと思うのですが……。ただ苦労したのは、長い髪の毛がサイドから前面側に垂れているじゃないですか。そうすると首から胸元にかけて大変なんですよね。

――情報量が多いと。

長森:そう。つまりは線量が多いわけですよ。原画で見えない部分を動画さんがちゃんと描けるかも大切なので。リテイクのもとになったりもするし、これは鬼門だったと思います。といって、首元に何もないとそれはそれで胸元があらわになりすぎますから。髪の両サイドが後ろに来ていてくれたら助かったんだけどな……とも思いますが、これがアイデンティティだし(笑)

――確かに(笑)

長森:難しいですよね。そのあとは他の私服系を描いてから、錬金術系や薬師といった前世衣装。以降は用途ごとにその都度発注を受けていました。

――前世の衣装もつくられているんですよね。

長森:前世衣装は、原作用のラフを何点かもらっていて、それを整えるかたちで進めていきましたね。自分でもう少しこうした方がいいんじゃないかと思うところはいじったりもしました。

――お気に入りの衣装はありましたか。

長森:お忍びデートの衣装とか。ちなみにこのときの髪型は原作資料にあったものなのですが、髪型も含めて、色がつくとよりかわいくなるんですよね。

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長森:あとは前世の薬師や商人も好きですね。

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――商人の衣装は少しアクティブウェア感がありますよね。

長森:時代背景的にこれだけ浮いている感もあるけど、髪型込みで気にいっています。侍女なんかもかわいいですし、錬金術師も……。

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長森:ここで着ているのは同じ錬金術師の先生であるミシェルの上着に近いものなんです。ミシェルの設定自体は大貫さんがつくっていたものなので、それをドッキングした感じです。少し大きめでダボ感をつけてかわいい感じにしたつもりです。それと、靴の裏は意外と見えるところなので、コスチュームごとで作っておかないといけなくて。近代のスニーカーのようにゴテゴテはしてないはずなので、するっとさせています。

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――3話の舞踏会で身に着けたドレスが、宣伝側で行なっていた人気衣装投票ランキングで1位になりました。この衣装についてはいかがですか。

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長森:デザインしているときは、あまりダンスを意識してなかったですね。これはたしか原作にない衣装だったから、写真参考を何点かもらっていくつかを組み合わせたと思います。

――気になるのは、タリーと最初に商談したときに着ていた赤いドレスでして。リーシェに赤は珍しいですよね。

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長森:髪の毛がピンクなので、赤系はなるだけ避けるようにと中村さんも言っていましたからね。本来はブルー系や緑が多いんです。

――先日、美術スタッフさんに取材したとき、ドレスデザインと(美術が)被らないようにしたという話がありました。

長森:そうですね。被ると溶けこんでしまうので。色に関しては、この作品のひとつのキーポイントだと思います。特に瞳の処理なんかはアップで見たら細かく入っていますし、唇についてもこだわったところだと思います。

――少し濡れたような感じですよね。

長森:ええ。男性も色トレスするのには驚かされました。さらに途中からマニキュアもつけるので、そこも色トレスをどうするかといった話も出てきたんで。それ以前に何も塗ってない場合でも、男と女でどうわけるか。少し色を変えるか、男の爪の色はもう肌と同じ色でいいかとか。でもリーシェは塗ってないときでも若干色を変えようか……と、爪についてはとにかくいろいろ議論がありました。

――袖が短いドレスもつくっているのですね。

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長森:長いものばかりではバリエーションがないので。もともとこの袖は透ける感じにして、シースルーにしようとしていたのですが、それだと作画時や仕上げ時に大変になってくるので、ベタ塗りになったと思います。このドレスはとにかくデザイン的に情報量が多いので、できるだけカロリーを下げられるようにいろいろ工夫していますね。
 それと、線画だけで設定をつくっているだけより、色を塗ってもらってはじめて見えてくる課題もあるんです。このドレスの場合ですと、正面と横と後ろでつじつまが合わない線の回り方をしていました。「この線がこう回るように描いたはずなんだけど、色を塗ってもらったら繋がってない」なんてことがあるんですよ。

いい刺激をもらえた作品

――総作画監督としてのお話もおうかがいできればと思うのですが、長森さんというと、近年はキッズアニメへの参加が多いですよね。これくらい頭身が高い作品は久しぶりだったのではないですか。

長森:そうなんです。頭身がどうしても低くなりがちで(笑)。もともと、リーシェのような女の子を描くのは、得意ではないと自覚していたのですが、アルノルトなら描けるかなと思っていたんですよね。そしたら全然似なくて(笑)
 僕が総作監を入れたあと、さらに大貫さんがキャラクターデザインとして修正を入れたカットがあったのですが、そこは見事でね。逆にリーシェのほうが、ドレスデザインを描いたぶん描きやすかったんですよ。それにアルノルトは表情変化があまりないんでね。視聴者的には、アルノルトはちゃんと美男子でないとダメだろうから。大貫さんのデザインに近づけるようには努力したのですが、苦手でした。大貫さんが(修正を)入れたやつはもう「かっけえなあ」って(笑)

――大貫さんの修正はやはり違いましたか。

長森:違いますね。ただ大貫さんも設定をつくった段階とは少しずつ絵柄が変わってきていて。「あれ、こんなシンプルだっけ」。と思ったときもあったし、こってりしている場合もあったので、どちらを採るべきか悩んだこともありました。でも、上がったフィルムを見ると、やっぱりかっこいいんですよね。

――それは色気みたいなものですか。

長森:そうですね。とくにアルノルトは色気のあるシーンが多かったじゃないですか。あれはもう、大貫さんの専売特許というか(笑)。「こういう色気、どうやって描くんだろう」と。僕よりも大貫さんのほうがずっと先輩なんで、今回関わらせてもらえたのはすごくいい刺激になりました。僕もここ何十年も自分のデザインやホビー系ばかりやっていて、なかなかそういう機会がないですから。そういう意味では苦しみながらも楽しめました。

揚田 カツオ

「ルプなな」リレーインタビュー

[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ)
テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。

作品情報

ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する

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