2024年4月24日(水)19:00
いわたかずや監督に聞く、原作の匂いと空気感にどう近づけるか【「ルプなな」リレーインタビュー第13回】
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第13回は監督のいわたかずやさんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)
目指したのはリアリティあるつくり方
――先に過去の監督作のお話になって恐縮なのですが、いわた監督は「幼女社長」や「恋は世界征服のあとで」(「恋せか」)でギャグやコメディ色が強い作品に携わられていましたよね。「ルプなな」はかなり違ったつくり方ですが、どちらがご自身の素に近いのですか。
いわた:けっこう雑食なんですよね(笑)。でも「幼女社長」は本当に特殊で、可能なかぎり原作をテンポ感をもって動かそうというスタンスではじめたんです。ああいう少し個性のある絵をそのまま動かしたほうがいいなと。作画さんにたいしてもキャラ表(※キャラクターデザイナーが描いた設定)を見ないでくださいとお願いしていたんです(笑)
――そうなんですか(笑)。「幼女社長」は初監督作品でもありますが、しっかりと監督としての方針は立てていたのですね。
いわた:そのつもりでした。その作品の匂いと空気感をどういう手法でだせるのか、原作に近づけるのかをまず考えて。いまお話にあがった、「幼女社長」はその最たるものですし、「ルプなな」も、原作にいかに誠実であるかを考えたつもりでした。
――では、「ルプなな」において、この原作ならこういうつくり方がいいのでは、というイメージもあったのですか。
いわた:ええ。まず「アルノルトをどう見せようか」と思ったんです。原作を読ませていただいて、なぜ彼が未来で戦争を起こしたのかを視聴者に向けて自然に見せないといけないなと。そう考えると「幼女社長」や「恋せか」で使っていたアニメ的な漫符や、頭身が縮む手法がノイズになる気がしたんです。ひとつの見せ方として原作小説のテンション感そのままにアニメへおきかえると、アルノルトをギャグで見せることはできないなと。そこから、アニメ版全体の作品性を組み立てていきました。
――ちなみにその後、原作の印象が変わった瞬間はありましたか。
いわた:ありましたね。劇的に変わったのは、雨川(透子)先生の裏設定をいただいたときでした。同時に先生のこの作品に対する思い入れと、その裏設定の量で身は引き締まりましたね。「これ、ただごとじゃないぞ」と。
――裏設定はどのタイミングで見たのですか。
いわた:本読みをしていた最初の1、2カ月の間はまだ受けとってなかったと思います。その間、本読みで話し合っていたみなさんのなかに、それぞれのアルノルトがあったんですよ。どこかで僕は「これではまずいな」と思っていて。そこで「裏設定があったらほしいです」とお話ししました。そこでアルノルトについての認識は一致したんです。結果としてですが、僕自身のアルノルト像は間違っていなかったですし、アルノルトに対する指針について、これで大丈夫だと確信がもてました。
――リーシェ側の方針についてはいかがでしたか。
いわた:リーシェについては、スーパーマンすぎるという話題が(シリーズ構成の)待田(堂子)さんたちからでていたんです。小説をアニメ化するときのジレンマなのですが、モノローグが多いタイプの作品だと、冗長になってしまうんですよね。そのため、主人公のモノローグを極力省いてオンセリフだけにしていくのですが、そうするとリーシェがスーパーマンになってしまうんですよ。
――どういうことでしょうか。
いわた:原作の構成上、過去生でやってきたことについてはモノローグや地の文で書かれていて、アニメではそこを飛ばすことになるんです。そうなると、なんの積み重ねもなくリーシェは能力が突出した人になってしまう。ですから、映像で補完する必要があるなと。
この作品の世界そのものは架空のものですが、画面の見た目上、「存在しない世界なんだ」と感じられてしまうとダメなんです。たとえばお城がメルヘンなつくりをしていたり、町や、背景の描写が理にかなっていなかったり。その時点で、視聴者からは「リーシェはアニメっぽい世界にいる」という印象を与えてしまい、つまりは「アニメっぽいストーリーラインのスーパーマンの話なんだ」と感じられてしまう。
そうなったら負けだと思ったので、可能なかぎりリアリティをもたせようと考えました。言いかえれば、現実世界にアルノルトとリーシェが存在するような画面のつくり方をして、はじめてモノローグが省略できるなと思ったんです。そこで「リアリティのあるつくり方」を各セクションのみなさんにお願いしました。
――リーシェというキャラクターの説得力が欲しかったんですね。
いわた:ええ。それはアルノルトも同様でした。残忍な人だったという見せ方をしないといけないときに、原作だと未来の諸行はやっぱり地の文で語られているんです。それをそのままモノローグにすることはできないから。「なら見せないと」と思ったのが1話の冒頭シーンです。
――原作にはないシーンですよね。
いわた:はい。でも、人殺しのシーンを見せないとアルノルトは成立しないだろうと。リーシェがいくら「アルノルトはこういう人だった」と語ったところで、視聴者からすればアルノルトはただのリーシェを気にかけている男性でしかないので。
手が抜けなかったダンスシーン
――キャラクターデザインは大貫健一さんですが、これはどういった経緯だったのでしょうか。
いわた:コンペ(コンペティション)があったんですよ。何人かに描いていただいたのですが、結果、大貫さんにお願いしたいと。これは僕からの希望でした。いくつかのデザインを並べて、これがいいなと言ったのが大貫さんだったんです。いちばん艶っぽいキャラクターを選ばせていただいたつもりです。その後、キャラの作業をしていただくうえでお願いしたのは、可能な限り原作のイラストの印象でつくっていただけないかと。八美(☆わん)さんの絵がお綺麗だったので、できるかぎりこれを再現できないかとお話ししました。
――アニメーションで再現するのは、相当大変ですよね。
いわた:でも、やりたかったんですよね。大貫さんもおっしゃられていましたが、「これをちゃんとやろうと思ったら大変だよ」と。でも「できるかぎり近づけたいんです」と逆に譲歩していただいたんです。それで、シリーズ12本、なんとか作品が保つ線の量ギリギリのところを試行錯誤してつくってくださって……本当にありがたかったです。
それ以降は、色をふくめての話し合いを色彩設計の中村(千穂)さんと大貫さんと交えてやりました。どういう塗り分けでどういう髪の色なら、原作の見た目に近づいたり、作品的な落としどころになるのかを試行錯誤していて。
――髪の色で話し合いがあったのですか。
いわた:アルノルトの髪の塗り分けって、黒髪の設定なのに、実は3色4色ぐらいあるんですよ。よく見たらハイライトの色が違うんです。黒髪の見せ方として、そんなやり方をしている作品は他にそうないと思います。原作のアルノルトの黒髪を表現しようと思ったら、単純に黒で塗ってもダメなんですよ。それだと、「黒髪の影」が存在しなくなりますよね。なら塗り分けが必要だと。でも黒でないのなら、青なのか紫なのか。そこはかなり検討していたと思います。
その色から逆算して「ならこういう影付けをしましょう」という、色からのフィードバックを逆に大貫さんが(線画設定に)反映してくれたんです。
――今回、スタッフィングの段階で監督から当てこもうと思われていた方はいらっしゃったのですか。
いわた:ダンスシーンで立中(順平)さんに入っていただけることになったのは、僕のなかで安心できた材料ではありました。実は、ほぼこの作品の立ち上げと同時ぐらいに「立中さんにお願いできませんか」と意見はださせてもらっていて。何よりも先にお食事に行きましたから(笑)。立中さんは「ユーリ!!! on ICE」という作品でフィギュアスケートアニメーションをやられていたのですが、それが美しくてね。
「ルプなな」第3話のダンスシーンは、いくらでも止めでダンスを見せるような、カロリーがかからない方法にもできたと思うのですが、原作小説のあのシーンでどういう意図がこめられているのかを鑑みると、絶対手は抜けない。「アニメ的な手法」で逃げてはいけないと思っていたんです。そして、絵コンテと演出を境(宗久)さんに担当していただけることになって。さらに(チーフプロデューサーの)上間(康弘)さんが3Dモーションキャプチャーも手配してくださったりと、皆さんが本気のダンスシーに向けて動いてくださったので、すごく感謝してます。
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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シナリオの価値
――原作を脚本に落としこむときのご苦労はどのようなものでしたか。
いわた:原作の地の文、モノローグの見せ方をアニメーションに変換するさい、語らないといけないことと、語らなくていいことの取捨選択がすごく大変だったんです。僕は文才がないので、つたない言葉で脚本家の方々にお伝えするしかないのですが、本当によくまとめていただいたなと思います。
今回は、いろいろ原作と違うシーンの入れ替えもさせてもらっています。できるかぎり「原作を変えない」が基本だと思って監督をやっているつもりなのですが、アニメとして成立しないことがあるんですよね。ただ、変えるとしても原作の趣旨は変えない。原作が「このシーンで何を言おうとしているのか」を客観的にとらえて、ショートカットするのが大切だと思っていました。今回は雨川先生の確認もいただいているので、原作が伝えたいことの意図も分かりやすかったんです。
――シーンで何が言いたいのか、その話数全体として何が言いたいのか、その道筋をはっきりさせるのが大事だったと。
いわた:ええ。そういう意味で、この作品においてシナリオの作業は、おそらく従来以上に重要だったと思います。趣旨がはっきりしていて、かつすっきりしたときに、それがおそらくアニメのシナリオの価値なんだと思って読ませてもらっていました。
――アルノルトの思考が読みにくいのも、入れ替えを難しくしたのではないですか。
いわた:いや、本当に(笑)。アルノルトが分からないといじれないんですよ。そこを基準にして入れ替えることが多かったように思います。あとで先生の添削をいただいて、「そういうことか。だったら元のほうがよかった」といったこともありましたし。
――このリレーインタビューで待田さんもお話しされていましたが、脚本のセリフ部分の文字を数えて、分数に換算されたそうですね。
いわた:これは「ダイヤのA」の監督だった増原(光幸)さんがやっていたことを踏襲したんです。
――いわた監督は「ダイヤのA actⅡ」では副監督でしたね。
いわた:はい。増原さんが当時すごく苦労されていたんですよ。通常、シナリオはペラ(※縦20字、横10字の原稿用紙)と呼ばれるもので分量を見るんです。ペラ枚数20ページから 22ページで終わるのが一般的なのですが、上がってきたシナリオをもとに実際にコンテを描くと、コンテが5分から7分オーバーしたり、逆にショートしたりするんです。
――かなり差があるんですね。
いわた:「ダイヤのA」がなぜそうなるかというと、野球というアクションがあるからなんですね。野球シーンだと必然的にセリフが少なくなるじゃないですか。でも、逆に日常シーンだと多くなるから、尺が読みにくかったんです。そこで、1話数の尺感を「見える化」したいとなったんですよ。いちばん尺をとるセリフを中心に考えれば、短くなっても長くなっても、前後2分3分で抑えられるんですね。それを僕も「恋せか」から導入していて。
今回、待田さんに「ペラ枚数を気にしないように」とお願いしていたんです。というのも、セリフが多くなって通常の20枚前後に無理やりおさめようとすると、ト書き(※セリフ以外のキャラクターの行動や状況などをしめした文章)をはしょりはじめる可能性があるんですよ。
――なるほど。
いわた:この作品は、行間がすごく大事で……。コンテマンさんや演出さん、役者さんもそうですが、しっかりそこを伝えないといけなかったんです。伝わらないと、さきほどお話しした裏設定がないときのアルノルトのように、10人いたら10人の解釈ができてしまう。ト書きで原作にあった、芝居、表情、内心を書き出すと、ペラ枚数は簡単にオーバーすると思ったんです。そうなったときに尺数の見える化をしないと、コンテになったときに多いのか短いのか、計算できないなと。
――しかし、たくさんト書きがあると、制作に反映するのも大変だったのではないですか。
いわた:いや、逆です。ないとずれた時に苦労しますから。そしてその苦労を背負うのは、やっぱり監督なんです。絵コンテの段階で表情の解釈が変わると、監督がチェック時に修正しないといけなくなる。ト書きの内容がコンテマンさんに正確に伝われば、ミスが少なくなるんです。
――情報量が多い作品ですしね。
いわた:それもありますし、この作品は、表情を間違えられないんですよ。とくにアルノルトがそうでした。気をつかわないと口角の上がり下がりの機微ひとつで違って見えてしまうので。あえてミスリードしている場合もあるのですが、それを分かっていてその表情にするのか、たまたまそうなったのかで、大きく違いますからね。
――本心と違ったミスリードをさせるための表情になっていることもあるんですね。
いわた:この人は笑っているんだけど、実は心のなかでは泣いている可能性があるときに、その表情もできれば映像にしたいんです。泣き笑いの表情をつくりたい。そういったことも、繊細なト書きがないと成立しないんですよ。
テンポ感に合わせたカメラワーク
――各話の絵コンテには監督修正をかなり入れられていたようですね。
いわた:それぞれのコンテマンさんなりの見せ方があるのですが、ト書きを書いていただいた解釈の仕方が、各々によって違ったんです。ト書きのおかげで2、3通りに狭まってはいたのですが……。どのセリフ、どの表情を立たれば、そのシーンの趣旨に合うのか。そこからの構築のはずが、どうしてもそれがずれてしまって、引き、寄り、表情の見せ方が求めていたものと変わっていた、ということが何度かあったんです。ただ、そのずれがまったくなかったコンテマンさんもいて、たとえば境さんのコンテはほぼ修正していません。僕はネームバリュー関係なしに、そこが外れていたら修正させていただくのですが、どこも直すところがなかったんです。
――各話のコンテマンさんは脚本打ち合わせには出席されていないでしょうから、考えを深めきれていなかったのではないですか。
いわた:そうだと思います。そういう意味でいうと、境さんは原作を全巻読まれていたんですよ。コンテの打ち合わせの段階でも、「こうされたほうが意図が伝わりますよ」と逆にご提案を受けるくらいでした。3話のなかでどこが大事なのかを的確に抽出してコンテにされていましたね。
――このまま演出のお話ができればと思うのですが、今回、カメラワークの指針はありましたか。
いわた:セリフのテンポ感がこの作品に大事だと思っていたので、そこに合わないカメラワークはやらないようにしていました。この作品では長パンをあまり使わなかったんですよ。縦長、もしくは横長な画面を作って、始点から終点にカメラを振る方法なのですが、この作品は会話でぽんぽん主導権が変わるじゃないですか。それが醍醐味なので、パンを使えるタイミングはないんですよね。使ってしまうとテンポ感が崩れる可能性がありそうだったので、コンテマンさんには先に「あまり長パンを使わないでください」と言っていました。使っているのはキャラ見せとBG(※背景)見せだけで。リーシェが8話のデート回でローブを脱いでエルゼに着せられた外出用の服をアルノルトに見せるところで、縦パンを使わせてもらったんです。始点から終点で、何から何を見せたいという明確な意図がないと、時間をつぶすだけのパンになりがちで。この作品でそんなことをしている余裕はないですからね(笑)
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――「ルプなな」はワンシーンでの会話がかなり長いですよね。その点における他作品との見せ方の違いはありましたか。
いわた:平気で5分、10分同じ場所で話す作品なのですが(笑)、座っている人間が2人いたとして、カメラを交互に振ったところで10分なんかもたないんです。そこは他作品以上に気をつかいました。登場人物が少ない、シーンの尺が長い、会話劇が多い。この3つの要素を飽きさせないためにどう見せるかは、もっとも頭を使った部分だったと思います。
――どこにカメラを振ればいいのかが明確だったとしても、同じようなアングルだと飽きてしまいますよね。
いわた:そうなんですよ。とはいえ、同じアングルは使わないともたないし、使うんだったら意味があるべきなんです。さきほどの話に戻りますが、「ここのセリフを立たせたいときに寄りを使うのか、引きを使うのか」を決めてからにしないと、シーン構築がしづらいんです。そのうえで視聴者に飽きさせないようなカットの積み方もしないといけない。コンテマンさんはすごく大変だったと思います。
もう一人のメインアニメーター
――美術について、監督からスタッフの方々にお話されたことなどありますか。
いわた:女性向けの作品でありつつ、現実味を持たせたいと思ったときに、ひとつ思ったのは、背景のリアリティが欲しいということでした。そのうえで、先生から事前にいただいていた設定のなかで、「電力は存在しない」との話があって、ろうそくや松明が光源になるだろうと。であれば部屋のなかはそんなに明るくないだろうし、なんなら日中の方が明るいといったことを意識してボードをつくってもらいました。
撮影処理も、暗く締めてもらうことがメインだったと思います。それこそ、部屋のなかの空気感で、ろうそくが当たっていないところは、撮影さんには美術以上に暗く落としてもらって遠近感をつくるといったことをお願いしていました。
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――1話のファーストカットもそうですが、暗いところはすごく暗いですよね。あれはあえてやっているわけですか。
いわた:見づらかったですよね(笑)。特に最初のシーンは、アルノルトが戦争を起こした張本人だと見せないといけなくて。いちばん気をつかったのが実は色なんです。暗いなかで赤を強調したかったんですね。それは血でもありバラでもあって。
――非常に印象的でしたね。
いわた:建物も極力色味をなくしてほしいと、金井(眞悟)さんに提出していただいたボードに何回も調整をかけさせてもらいました。建物自体に目がいかないようにしたんですね。雷が落ちたときに、その瞬間だけキャラクターが立つように、回廊を暗めの色にしてもらいつつ、アルノルト、血、雷の3要素で見せていく。一方、城を守っている側は白い服を着せています。
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――それも色を意識されているわけですか。
いわた:そうですね。清い側として設定しました。建物は黒、敵も黒、味方は白。情報量が少ないなかで、できるかぎりわかりやすく見せたいと思ったんです。
――1話冒頭のアクションも驚かされました。メインアニメーターの井上英紀さん、今西亨さんのインタビューでも、アクションに力を入れられたとうかがいましたが。
いわた:ありがたいですね。1話はおふたりにとくに助けていただきました。あそこは自分でコンテを描いているのですが……。原作やシナリオにもない剣への映り込みをやってみたりしていますね。
――1話以外のアクション面で注目してほしいところはありましたか。
いわた:6話の湯舟(正博)さんのバトル……かっこよかったですよね(笑)
――リーシェが脱出してテオドールの部下と戦うところですよね(※リーシェがテオドールにつめよるなか、回想として入る3つの脱出シーンのうち、階段からジャンプして、短刀でのアクション後、テオドール部下が階段落ちする一連のみ湯舟正博さんが担当)。
いわた:12話のラストシーン、リーシェとアルノルトの指輪のやり取りも湯舟さんの原画だったから、すごく僕のなかで印象に残っていて。「このシーンをやった方はどなたなんですか」と聞いたときに、湯舟さんの確率が高かったんです。オープニングだと、赤ん坊や鹿と戯れるリーシェや、リーシェが走って抱きついて、くるっと回って、リーシェが消えてアルノルトが前に倒れかかる一連とか。もう一人のメインアニメーターのように要所で入ってくださったから、ありがたかったですね。
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いつか「ルプなな」を目標に
――キャスト面では長谷川育美さんが初主役ということで話題性がありました。「幼女社長」では武堂吉音役で、「恋せか」ではヒロインの禍原デス美役で起用されていますが、お芝居に魅力を感じていらっしゃるのですか。
いわた:以前にお仕事をしたことは関係ありませんでした。オーディションでおひとりずつ丁寧に聴かせていただいたうえで、リーシェという清廉潔白で、気性的には凛としているけれど、なぜか初心(うぶ)でもあるキャラクター性を考えたときに、僕のなかでは長谷川さん一択だったんです。ただ、決まってから考えると、以前やっていた「恋せか」のヒロインもわりと近い気性なんですよ。
――キャラクターとして似ている面がありますよね。
いわた:誠実で、強くて、でも初心。できるかぎり声の質感というか、受ける印象からキャラ性も表現したいと思っていたので、長谷川さんの声質はそこにマッチしているなと。それでほかのキャストについては、長谷川さんを座長としたうえでバランスをとって、候補から選ばせていただいたんです。
――実際にアフレコ現場で音響監督さんと一緒に演技を聴いて、お願いしたことなどありましたか。
いわた:シナリオでト書きが台本上でも文章化されているおかげで、アフレコでほかの作品よりやりやすかったです。感情面がはっきり決まっている状態ではあるので、シーンとして大事にしている言葉や感情は、音響監督の森下(広人)さんにとっても分かりやすかったのかなと。さらに長谷川さんも島崎(信長)さんも原作を読みこんできていただいているなかで、キャラクターはもうできあがっていて、あとは細かいアテンドだけさせていただきました。
――放送が終わって、結果としては海外をふくめて評価の高い作品になったと思いますが、どのあたりにその原因があると思われますか。
いわた:正直にいうと、ちょっと分からない部分もあるのですが……。まずは原作の魅力だと思います。あと、頑張って構成をつくってお話を書いていただいたライターさんたちの努力が報われたのかなとは思いますね。
――今回もっとも苦戦されたのは脚本なんですか。
いわた:そうですね。脚本は本当にみなさん長いことがんばっていただいたと思います。コンテも大変でしたが、脚本ありきのものなので。監督としては、どうしてもやれるのは絵コンテまでで、あとはスタッフの方々に絵の底上げをしていただいて。僕自身もあがってきたものを楽しみにしていたんです(笑)
――ちなみに、今日のお話の冒頭で、原作に誠実につくっていきたいとお話しされていましたが、オリジナル作品にご興味はないのですか。
いわた:そうですね……。原作がある作品は、1を10にする仕事だと思うんです。1という原作があって、監督という役職でそれを2、3にしたものを、それぞれの役職の方々が10にするのがアニメだと思うんですね。自分はどちらかというと、そちらのほうが得意だとも思います。
ただ、0を1にする仕事はどうしてもいつかはやってみたい憧れではあります。自分は原作をお借りしている立場で、まだその実力もない。でも、いつかは0から1を生みだせるような作品をつくれればと。そのときは「ルプなな」のような素晴らしい作品を目標に、あがいていきたいと思います。
「ルプなな」リレーインタビュー
[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ) テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。
作品情報
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