2024年4月10日(水)19:00
音楽・宝野聡史&葛西竜之介に聞く、引き算の楽曲づくり【「ルプなな」リレーインタビュー第11回】
サウンドトラックの配信ジャケット
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第11回は音楽を担当した宝野聡史さん、葛西竜之介さんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)
あえてスケール感の小さい音楽を
――「ルプなな」への参加は、いわたかずや監督作品の「恋は世界征服のあとで」(「恋せか」)に続いてになると思うのですが……。
宝野:これは偶然なんですよ。とくに監督からオファーがあったわけではないんです。
葛西:不思議な巡り合わせだったんです。
――そうなんですね。「ルプなな」でのいわた監督からの音楽発注というのはどのようなものだったのですか。
宝野:「恋せか」をやってからの2回目だったということもあって、かなりおまかせいただけたと思います。いわた監督と音響監督の森下(広人)さんの2人からの意見としては、今回はドラマっぽい感じの音楽にしてほしいと。派手に絵が動くというより、人間の内面性を美しく描いている作品なので、雰囲気を重視するつくり方でドラマっぽく、との発注がきたのではと解釈して制作しました。
――音楽メニューはどのようなものだったのでしょうか。
葛西:シンプルでしたね。
宝野:こちらが試されているかのような(笑)。細かく書いてあるわけではなかったんです。結構読み解くのが大変で。想像しながらつくりました。
――最初に30曲つくられているようですが、追加発注もあったのですか。
葛西:Mナンバー(制作段階における楽曲番号)でいうと、31以降が追加の曲で、39まであります。
宝野:でも最終的に曲数が47曲になって。
――ああ、さらに増えたのですね。
葛西:というより、枝分かれしたんですね。それぞれの楽曲での別バーションみたいな感じです。
――「ルプなな」はお城がメインの舞台ですが、そのあたりは意識されていますか。
宝野:そこは全体的なテーマとして捉えていました。貴族感というか、どこかクラシカルな要素を感じさせる音楽にしていこうと。
葛西:けっこうやりたい放題させてもらいましたね(笑)
宝野:葛西さんの曲は、まさにそのクラシカルなよさがあるんです。それと今風の流行りの要素をうまくミクスチャーした楽曲が多いと感じます。
葛西:ふだんアニメの劇伴もやりつつも、オーケストラの曲をかいてもいるんです。そういう違う畑のものの影響があるかもしれないです。
宝野:クラシカルな楽曲、すごく好きだよね。
葛西:そうですね(笑)
――では、今回は好きなだけその要素は詰めることができたと。
葛西:かなりいろいろ挑戦できました。たとえば編成ですが、僕の曲でギターはほぼ使わないようにしていたんです。いわゆるみなさんがイメージされる、オーケストラのなかにある楽器だけでつくろうと、自分に制約をもうけていました。あえて要素をしぼろうと。
――クラシックという枠の中でつくってみようとされた。
葛西:楽曲単体を抜きだしても、コンサートで演奏できるぐらいのイメージでできたらいいなと思っていました(笑)
――なるほど。今回、編成的な工夫はありましたか。
宝野:古今東西、いろんなファンタジーもののタイトルがあると思うのですが、そういった音楽をつけるときは、世界観を大きくしがちなんですよ。録音のときも、大がかりなスケール感にしてみたり。ただ、「ルプなな」は城内でおこる物語で、大きな世界や冒険というよりは人間の内面性を描く作品でもあるので、ファンタジーものではあるのですが、弦の編成を中心に室内楽(少人数の独奏楽器による合奏音楽)的にしたんです。
――あえてスケール感を小さくしたんですね。
宝野:そうですね。そこは調整して音色感をつくりました。
もっとシンプルに
――最初に着手されたのはどの曲からだったのでしょうか。
宝野:リーシェのテーマ(Rishe's Theme【OST曲順01】)がありまして、僕はそれからですね。
――牧歌的な曲ですよね。どういったところに気をつけられていましたか。
宝野:はじめに言ったドラマ的な話ともつながるのですが、キャラクター性はもたせつつも、日常的な楽曲としました。リーシェが普段生活しているなかで何気なくかかる曲として違和感がないようにつくったつもりです。
葛西:この曲もそうですが、宝野さんの曲は、完成してアニメで流れたとき、世界観をきめこむだけの印象的なものになっているんですよね。「この作品と言えばこの曲」というものが毎回あって。あと、メロディーがすごく素直なんです。すっと心に入ってくるメロディーを紡がれていて……生意気ですみません(笑)
宝野:ありがとうございます(笑)
――リーシェとアルノルトについての楽曲はかなり多いんですね。
宝野:そうですね。いまお話させていただいた「Rishe's Theme」のほかに「Kindness【OST曲順02】」「Intelligent【OST曲順03】」の3曲が大まかなリーシェのテーマ曲です。
――宝野さんがリーシェ担当だったんですね。
宝野:そうです。宝野がリーシェで、葛西さんはアルノルトやテオドールです。
――葛西さんはどの曲から着手されたのですか。
葛西:ワルツの曲(Waltz ”Rishe and Arnold”【OST曲順07】)です。
――3話のダンスシーンで流れた曲ですね。
葛西:そうです。「これを取り急ぎお願いします」と。あれは曲が先行で、その曲ありきでモーションキャプチャーを撮っていただいたんです。だから構成も何もわからない状態でつくっていて(笑)。尺も最終的にはほとんど使っていただいていたのですが、編集する上でカットできるポイントを5、6カ所用意していました。どこをどう使うかわからなかったので。
宝野:この葛西さんのワルツの曲は、僕のお気に入りでもあるんです。アニメになったときのダンス映像の細かい描き方、表情の作り方、そこもふくめて、すべてがうまく映像にマッチした楽曲だったと感じました。
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――曲制作の順番でいうと、その後は何を制作していかれたのですか。
葛西:僕の場合はモチーフが他の楽曲と違いそうなところから先に手をつけた感じです。なので、心情曲はそれよりあとに作っています。
――ではアルノルトのテーマ(Arnold's Theme【OST曲順04】)などのキャラクター関係ですかね。
葛西:そうですね。「Arnold's Theme」は、最初はもっとリズムの音がいろいろ入っていたのですが、それをどんどんカットしていきました。森下さんからのリテイクで、「もっとシンプルに」と言われていたんです。頭を悩ませたところですね。表と裏の表情があるアルノルトらしい感じを試行錯誤してみたり、オーダーだった耽美感について考えたり、最初はリズムで刻んでいたものを全部取っ払ってみたり……。2、3回つくり直して今のこのかたちになっています。夜のもつイメージ、月夜の射す光と暗闇との陰影も意識してつくりあげました。
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――森下さんからリテイクがあった曲だと、ほかにどういうものがありましたか。
宝野:大きく方向性が変わったものだと、先ほどお話ししたリーシェのテーマです。最初はもっと快活で、リーシェの女の子らしい部分を強調した曲だったんです。つまりはポップな曲調でつくっていたのですが、アニメ的にデフォルメしすぎていて、最終的にこういうかたちに落ち着いたんです。インタビューを読んでいただいている皆様にお聴かせできないのが残念ですが、実際に不採用になった曲と聞きくらべるともう全然違います。
――では、完全につくり直しているんですね。
宝野:そうなんですよ。修正というよりは、何もかもが違う楽曲となりました。ただ、やっぱり映像にあうと「こういうことだね」と強く感じるので、そのあたり、監督と森下さんの中で完成形のイメージがしっかりとできていたのだと思います。オンエアで僕らも「こういうことだったんだ」と再確認することができました。
――引き続き、タリーのテーマ(Tully's Theme【OST曲順11】)についても聞かせていただけますか。
葛西:この曲は異国感をというオーダーがあったんです。ただ、あまり中東っぽい感じにはしないでほしいと打ち合わせの時にはありました。
――タリーの見た目は少し中東っぽい感じもありますが。
葛西:そうなんですよ。音色的にバンドネオンの音色を使って、タンゴのテイストでやるのが、落としどころになるのかなと思って。ピアソラ(作曲家のアストル・ピアソラ)の楽曲様式を用いてつくったんですね。
――キャラクターにあてているものは、ほかにテオドールのテーマ(Theodore's Theme【OST曲順06】)がありますね。
葛西:不気味さ、不安気にというオーダーでした。鬱々とする感じを出せたらということで、下降していく音型をモチーフにしました。
――ミシェルの曲(Michel's Theme【OST曲順39】)もありますが、こちらも不穏系ですか。
葛西:「捉えどころがなく」というオーダーでした。この曲もかなりかき直しましたね。最初はもっとはっきりとした曲だったんですよ。でも、それをアンニュイなほうに寄せていったんです。
「ルプなな」に感じる「引きの美学」
――ここからは、それぞれのお気に入りの楽曲についてお聞かせいただけますか。
葛西:Dream【OST曲順18】は、リーシェのテーマのモチーフをお借りしてつくっているのですが、今回のメニューのなかで僕がいちばんスムーズにかけた曲かもしれません。曲を作る時にいろいろこねくり回してかいたときって、やっぱりあとから見たさいに意外とかたちがいびつに見えることがあって。そういう意味で言うと、この曲は一筆書きのようにかけた曲だったので、流れもスムーズにできたような気がしていて好きな曲です。
宝野:僕は「The Power of Words【OST曲順17】」ですね。曲タイトルの意味からも分かるとおり、リーシェが言葉の力で人々を動かすシーンで主に使用されています。そういったリーシェの内面にある複雑な気持ちを、様々な楽器が絡み重なり合うことで表現しています。森下さんのシーンへのあて方もふくめて、オンエアで流れたときに自分でもお気に入りの楽曲になりました。
――この曲だけでなく、全般的に音響監督の森下さんの音のつけ方はいかがでしたか。
葛西:オンエアを見たときに「この楽曲はそのシーンに当てるのか……」みたいなパターンもあるのですが、あまりそういうことを今回感じなくて。「ここに当てていただいて、ありがたい」と。リテイクをいただいていたのも、完成したら「そうだな」と納得させられるんですよね。すごく腑に落ちたんです。
――曲のはじめから終わりまでずっと楽曲が流れ続けているといったことは、珍しいのではないですか。
葛西:そうですよね。たとえば12話だと、ラストシーンに使われた「Ring【OST曲順47】」という曲なのですが、あれは原曲自体が3分40秒ぐらいあるんですよ。原曲もそれなりに長い曲なのに、それを伸ばして、総じて4分半ぐらいずっと使っていただいているんです。こんなこと、なかなかないと思います。
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この曲はつくって、1回もリテイクがこなかったんですよ。音楽的な話でいうと、アルノルトの結婚に対するイメージと、リーシェが考える結婚のイメージの違いや、この作品の持つ表裏一体的な二面性が出せたらいいなと。和音もマイナーとメジャーを交互に使って、色々な側面を見せられるように、といったことを意識してつくった曲だったんですね。
――それはアルノルトとリーシェに見立てていたのですか。
葛西:そうですね。作品を総括するなかで、そういう世界観の曲にできたらいいなと思って作りました。真部(裕)さん(※バイオリニスト、作曲家)のバイオリンが本当に素晴らしい。指輪をはめる瞬間と楽曲の展開がピッタリ合っていて、「うわ、なんかジーンと来る」と思って(笑)
――この曲が指輪のシーンに使われるのは前提だったんですか。
葛西:そうですね。M31以降は「このシーンで流したい」と明確にありましたね。
――ちなみに追加発注が行われたのは、それまで制作していた曲だとつけるのが難しそうなシーンが多かったからなのですか。
葛西:いや最初の時点で、「10話以降は別発注にします」となっていましたね。それを待ってつくったんです。
――なるほど。では10話以降は新規曲が多いんですね。
葛西:多いと思いますね。たとえば12話だったら花火が打ち上がるシーンで流れている「Forgiveness【OST曲順45】」。これも初登場で、そこだけに使っていただいた曲だったので、ぴったりはまっていて。
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――「ルプなな」は曲と情景が高い度合いでシンクロしていますよね。
宝野:そうですよね。シーンとシンクロしているところについては、音楽の付け方が作家から見ても素晴らしいんですよ。そういったところが、何箇所もこのアニメーションにはあって。7話で2人が手合わせをするじゃないですか。
葛西:僕、あの曲好きです! 「Bout【OST曲順13】」ですよね。
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宝野:(笑)。あの楽曲も長い尺で使っていただいて。納品したツーミックスとは別に、ステムデータ……ようは「ストリングスだけ」「リズムだけ」といったパートごとのデータも森下さんにお渡ししているのですが、シーン的に、一瞬時が止まるみたいな箇所や、モノローグ的な語り合いといったちょっとしたシーンで、うまく音の抜き差しを楽曲のなかで行っていただいているんです。これは、ただ曲をお渡しするだけでは成立しない演出なんですよ。非常に高度なことをやっていただいています。
葛西:「Bout」って、一瞬リズムトラックだけになって、再びメロディーが戻ってくるんですよね。そうすることで音楽的により一層効果的に感じるんです。これはすごい。僕もあのシーンは見ていて「素晴らしいな」と(笑)
宝野:非常にフィルムスコアリング的なんです。 まるで映像に合わせてつくった音楽かのように思わせる音楽の付け方で、素晴らしかったですね。
――11話の蛍のシーンなど、無音を効果的に使用されていますが、この演出についてはどう思われますか。
葛西:あえて「引く」。宝野さんの「Bout」のシーンもそうですが、引きの美学が感じられるんですよ。12話もそうですが、淡々とセリフだけが続くとか……。それももちろん絵の力があってこそなのですが、要素を絞ってシンプルに戦える強さがあるのが、「ルプなな」の特色だと思いますね。
人間性を乗せる、ミュージシャンの力
――演奏を収録された際のトピックなどありますか。
宝野:「ルプなな」は編成観が小さめの室内楽的な規模感だったんです。とにかくこの作品自体の美しさに寄り添う音楽になるといいなと。シンプルな編成だからこそ、生楽器の録音をすることで、シンプルな美しさを表現したつもりです。打ち込みではない、プログラミングでは出せない、生の息遣いを演者の方にも意識していただきました。
葛西:あとタリ―のテーマについてなのですが、レコーディングの途中で、バイオリンのファーストの真部さんに演奏していただいているなか、譜面は書いてあるのですが、「アドリブっぽく」と指示を出したところがあって(笑)。そうしたら真部さんが、一度曲を聴いて「分かりました」と言って、それでバッチリ決まるんですよ。それはやっぱり生演奏ならではですし、いろんな作品で演奏されている真部さんだから、対応力がすごいんだなと思わされました。
――「アドリプっぽくやってください」の指示は、アドリブではないですからね(笑)
葛西:いちばん嫌だし難しいと思うのですが(笑)
宝野:私たちはふだん譜面上で楽曲をつくるのですが、それを実際に演奏していただくことによって、自分だけではない音楽性を取り入れることができるんです。そこが(打ち込みではなく)あえて録音する意味なのかなと。
葛西:人格、人間性がのるんですよね。それが一種の揺らぎになって、作品の豊かさにつながっていくんだと思います。
宝野:かなりミュージシャンの方々の力も、「音楽でアニメの演出をする」うえでキーポイントになっているのでは、と感じますね。
――最終回を迎え、作品の反響をうけて思うことはありますか。
宝野:反響を受けてうれしくも思いますし、僕自身、すごく「ルプなな」という作品が大好きで。最初に原作を読んだときから感じていたことなのですが、キャラクターの魅力や内面の心情の表現、細かい衣装、背景のディテール、鮮やかな色と、本当に素敵な作品だということをいち視聴者としても感じています。
葛西:そうですね。毎回僕も「ルプなな」放送後にX(旧Twitter)でずっと見ていたのですが(笑)。僕ら、ものをつくる人がこだわった部分。絵、音響、音楽、セリフ、原作者の雨川(透子)先生のこだわりを、しっかり視聴者の方がうけとっていただいている気がするんです。これは本当にうれしかったですね。2期があるのなら、ぜひご一緒できたらうれしいなと思っています。
――最後に、この作品を経て、ご自身の中で得たものはありましたか。
宝野:音楽的なところでいうと、絵に対する音の当て方についてはもともと意識していたつもりだったのですが、森下さんのオーダーを経て、やり取りを行うなかでより新しい世界が見えた気がします。あと、「ルプなな」にたずさわることで、物語に深く浸かって、リーシェの前向きな気持ちや、チャレンジしていく心を得て、モチベーションにつながったなとも思いますね。
葛西:僕はやっぱり制約をもって要素をしぼったことですかね。シンプルな素材だけで戦う、つくることが、これまでにやったことがないチャレンジだったので。今回それは経験として大きかったなと。料理でいえば“原材料にこだわる”みたいな、素材で戦えるつくり方も本当に大切なことで、今後もそこはこだわっていきたいなと思えた作品でした。
サウンドトラックの配信ジャケット
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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オリジナルサウンドトラックが4月10日から各配信サイトで配信中(https://lnk.to/7thTimeLoop)
「ルプなな」リレーインタビュー
[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ) テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。
作品情報
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ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する
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