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特集・コラム 2024年4月24日(水)19:00

3DCGディレクター・広沢範光に聞く、「注目されない」CGのあり方【「ルプなな」リレーインタビュー第12回】

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第12回は3DCGディレクターを担当した広沢範光さんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)

質も量も大変だったモブキャラクター

――広沢さんはどのような経緯で本作に参加されたのでしょうか。

広沢:スタジオKAIさんとは前作の「骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中」という作品でご一緒させていただき、その時の制作プロデューサーで、今回チーフプロデューサーを務められた上間(康弘)さんにお声がけをいただきました。

――参加にあたって原作を読まれていると思いますが、CGをこういったところに使用したいといったイメージはありましたか。

広沢:ええ。主人公のリーシェが、基本的にお城の中だったり城下だったりと、人がたくさんいる場所にいるんですよね。そうすると、CGを使うとしたらモブが中心になるだろうなと考えていました。実際、いわた(かずや)監督からもそういうところをお願いしたいと要望があって。ただ、同時に今回モブはほとんど動かさなくていい、とも話があったんです。

――それはどうしてですか。

広沢:監督の意図としてはメインキャラクターを引き立たせたかったのだと思います。ただ、動かさないからこそ、できる限り自然なポーズでモブを置くようには意識しました。おそらくCGチームの労力もくんでくれたのだと思うのですが、そこは内心胸をなでおろしましたね。多いところでは40~50人のモブがいますから(笑)。単純に物量の多さでいうと、弊社(オーラスタジオ)で携わった案件のなかでも過去いちばんだったかもしれません。数もそうですが、通常の作品はそれぞれもっと衣装がシンプルなんです。一方本作はその作品柄、女性モブのドレスはもちろんですが、男性モブも衣装が派手なんですよ。ほかにも騎士の場合は剣を持っていたりするので、とにかく大変で。実は、最初のオーダーにあった物量でも結構なカロリーだったのですが、演出意図を鑑みてもう少しバリエーションが欲しいとなりまして、モデルをひと通りつくったあとにすべてのモブキャラクターでもう1色追加したりもしたんです。

雲間からのぞく月を印象的に

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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――とくに印象的だったCG制作について聞かせてください。

広沢:1話でいうと冒頭のループを表現した歯車のカット、モブ、馬車一式でしょうか。作画だと大変になるであろうところを引き受けました。あと、アルノルトがリーシェの手をとって婚約するシーンで、雲が月を避けて光が射し込む印象的なカットがありますが、あの雲が実はCGなんです。

――それはわからなかったです。

広沢:もともとは作画でやるものと思っていたのですが、上間さんがここはどうしても印象的にしたいということで、雲をCGで動かすことになったんです。冒頭の大切なシーンですから、CGを使用することでリッチに演出したいという意図があったそうで。

――印象的なシーンにCGを使用しているのも「ルプなな」の特徴のひとつですよね。

広沢:そうですね。どのCGも話数のきっかけであったり、キーになったりするような場面で多く登場したかと思います。

――先ほどお話にでた馬車ですが、2話で馬車が止まる前にエルミティの王様が降りてくるカットがありますね。馬車はCGで王様は手描きですから、合わせるのが難しかったのではないですか。

広沢:あのシーンは大変でしたね。いただいたレイアウトに合わせてCGを出すのですが1回ではうまくいかず……。セルの芝居のタイミングとCGの馬車の動きが合わずに何度も調整を繰り返しました。だからこそ、ほかではあまり見ないような面白いカットになったんじゃないかなと。

――なるほど。馬車は種類も多かったような気がしたのですが。

広沢:3、4種類ぐらい作成したのですが、前作「骸骨騎士様」での経験もあり、かなり作業はしやすかったです。決定的に違うのは物量でしょうか。城門前に何台も馬車が集合するシーンがありますが、その圧倒的な物量を前にして、ノウハウがあっても大変だなと思いました(笑)。3、4台連なっていたり、10台以上が集合していたり。「骸骨」でやっていてよかったなと(笑)

(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会

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はじめての経験だったダンスシーン

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――3話でのダンスシーンのCGも担当されていますが、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。

広沢:まず、シーンに流れる専用楽曲をいただいて、それに合わせて振り付けをつくっていただきました。それを踏まえて、実際にダンサーさんに踊っていただいて、それをモーションキャプチャーで撮影し、そのムービーを下敷きにして(3話の絵コンテ・演出担当の)境(宗久)さんが絵コンテを制作。そして、そのコンテをもとに3Dの棒人間的なものでレイアウトをつくっていきました。

――3Dを起こす点でご苦労などはありましたか。

広沢:あくまでもモーションキャプチャーなので、キャラクターと合わせるために身長や体格を3Dで調整する必要があるんです。3D上ではリーシェやアルノルトといったキャラクターの体格に合わせたモデルを用意しているのですが、そこはアニメーションのキャラクターなので、実際に踊っていただくダンサーの方の頭身とは完全には合いません。ですから、モーションキャプチャーに落としこんでみると、手をつなぐ振り付けのところで手が離れていたりすることがあるんです。

――3Dでさらに細かくキャラクターに合わせて調整を行っているのですね。

広沢:そうですね。それに加えて、モーションキャプチャー後に新たに作られた絵コンテに合わせて振り付けや手の位置、キャラクターの目線、顔の向きなどもきちんと調整しています。そうして完成したデータをもとにアニメーターさんがさらに細かな部分を修正して、描いてくださる流れです。

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――ダンスホールは草薙さんのCGを使用されていると、美術スタッフのインタビューでうかがいました。

広沢:そうですね。ただ少し専門的な話になるのですが、いただいた背景はレイアウト用のモデルなので、そのままレンダリングして背景に使えるというものではないんですよね。

――というと、新たに背景を描き直す作業が必要ということですか。

広沢:ええ。最終的には美術さんに描いていただく必要があるんです。これがフル3Dの作品であれば、キャラクターにカメラがぐるっと回り込むカットは、動画で描き出してしまえば終わりなのですが……。「ルプなな」の場合、たとえばキャラクターがいたとして、そのままカメラを右に回りこませると、背景が左に流れていく。その時に「背景が左に流れていく動画」ができると思うのですが、その動画に合わせた1枚の出力紙を美術さんにお渡しするんです。一方で背景が左に流れていくデータそのものは撮影さんに渡すといった工程でした。つまり弊社では回り込みを疑似的に再現するための、美術と撮影用ガイドを3Dでつくっていたわけです。

――けっこう手のかかる工程を経ているんですね。

広沢:そうですね。今回ダンスに合わせて背景がかなり動くので、どう連携して動画にしていくかは常に考えていました。

――ダンスシーンで3Dを使用するご経験は、これまでもあったのですか。

広沢:いえ、これははじめてでした。この作品ならではだったと思います。実際に踊ってもらって、それを撮影したうえで作画さんがそれを参考に描くことはあると思うのですが……。3Dを挟んでカメラワークも組む力の入れようで、それだけきちんと成立させようというプロデューサーと監督、演出家さんの思い入れには圧倒されるものがありました。

ケースに入っていない宝石

――8話に登場する宝石もCGですよね。ここは監督から何か発注がありましたか。

広沢:形状はレイアウトに合わせていて、質感周りはお任せしていただきました。こだわりでいうと、リアルにしすぎないことでしょうか。CGはリアルにしようと思えばいくらでもできるのですが、そうすると作画から浮いてしまうし、世界観にもマッチしなくなってしまう。反対にアニメっぽくベタ塗りにしすぎると、CGにした意味がなくなってしまうんです。なので、「アニメの世界の中に存在している、ひと際リアルな質感」にこだわりました。
 あと、ケースに並べられた宝石の配色は僕が決めているんです。リーシェは宝石店の店主であるミヒャエラからいくつかの宝石を見せてもらいますが、その後の話の流れを踏まえて、あの中には最終的にリーシェが選ぶアルノルトの瞳の色の宝石は入れていないんです。

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――たしかに。リーシェがアルノルトの瞳の色の話をして、ミヒャエラが奥から出してくる流れでしたよね。

広沢:そう。なので、くすんだ青はあるのですが、あえて鮮やかな青の宝石をあのなかに入れていないんです。

――9話のオーロラもCGでしたよね。ここは視聴者からの反応もかなり大きかったと思うのですが。

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広沢:反応があって本当にうれしかったですね。オーロラはどういう配色と動きにするのか、とても難しかったので。

――オーロラのなびきは、実際のものを参考にされたのですか。

広沢:そうですね。実際の映像や写真を見ながら、3D上で動かしたり、模様を切り替えたり、ちらつかせてみたり……。どうアニメの表現に落としこむべきか非常に悩みました。僕たちなりに試行錯誤してあのかたちにたどり着いてはいるのですが、撮影さんにさらにきれいにしていただけたと思います。

――CGのうえから撮影処理をかけているんですね。

広沢:はい。僕らもある程度ベースになる素材を作成して、エフェクトをのせてきれいに見えるようにしたのですが、さらに撮影さんにもう1段階手を加えていただいて、よりきれいなものになっていて。僕自身も上がりを見たときに「お、いいですね」と思いました(笑)

手前と奥とでスピードが違うホタル

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――CGで制作されたもののなかで、一番苦労されたのはどれになるのですか。

広沢:手がかかったところだと、11話のホタルでしょうか。まずホタルを3Dにするにあたり、うちのスタッフにモデルを試作してもらったのですが、あがってきたものがリアルな昆虫すぎてちょっと気持ち悪くてね(笑)。ホタルの要素は、そこでかなり単純化させたんです。その後も手描き作画と調和するようにできるだけ情報量を減らして、世界観になじむようにデザインする作業を繰り返しました。

――監督からもホタルについてはリテイクがあったのでしょうか。

広沢:そうですね。ある程度は事前にモデルを絞ったのですが、それでもまだ少し虫感が強いとのリテイクがありました。ですから、本編で足はあまり見せないようにしています。 ホタルだと思わせつつも虫感をあまり出さないよう、カット内での見せ方や、フォルムの作り方に対して、つどリテイクをいただいて調整しています。

――ちなみに、ホタルの光は撮影ではなく、CGでつくっているのですか。

広沢:3Dモデルの発光部分に CG上で球体の光源を入れこみ、さらに少しエフェクトをかけてホタルの光を表現しています。なので、かなり立体的に動かすこともできるんです。光状のエフェクトとして視聴者には認識されてしまうと思うので、あまり分からないと思うのですが、実は光の玉も奥行きを持って3D空間で動き回っています。

――ホタルにはかなり力を入れているんですね。

広沢:ええ。画面内にいっぱいいるホタルは、ある程度3Dの機能を使って自動で動かしているものの、速度調整はカットごとに気を遣っていたりもします。

――どういうことでしょう。

広沢:カメラとの距離によってホタルの見え方に差があるんですよね。僕たちが普通にホタルを撮影しても同じようになるのですが、画面の奥ではゆっくりに見えて、手前に来ると早いんですよ。ソフトウェア上で自動で動かしてしまうと、そういったことが考慮されていない動きになってしまうんです。リーシェやアルノルトの近くを通る手前の5、6匹は、ひとつひとつCGアニメーターが手で動きをつけて自然な動きになるようにしています。

――12話の花火も印象的でした。あれは夕景だったこともあり、かなり難しかったのではないですか。

広沢:そうなんですよね。最初は夕景だったために、花火がなじみすぎてしまって。もともとあの世界には花火がないわけで、おそらくはシンプルなものだろうという予想をして花火を用意していたんです。ですが、いざ監督に見ていただいたときに、NGが出てしまって。そこで監督からご指示をいただいて、火花の量や発光の仕方を夕景に映えるように強めに変更しました。ここは、かなり時間かけて細かく調整しています。

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舞台装置としてのCG

――オープニングの話も聞かせてください。リーシェがループする光のトンネルや海を担当されたと思うのですが、どのような発注があったのでしょうか。

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広沢:光のトンネルについては、(絵コンテ・演出担当の)中村(亮介)さんにこちらからいくつか質問させていただいて、それに対し明確な答えをいただいたことが印象に残っています。色味や、途中で舞っていくものの意味合い、どんな雰囲気にしたいかを最初の打ち合わせの場できちんとお伝えいただけて、いいコミュニケーションがとれたなと。
 時間を遡ることの表現だったり、逆流している色味についてはサンプルまで出していただきました。本当にやりやすかったですね。
 「ここにはこういう意味があるんだ」ということがはっきり伝わったこともあり、3Dとしてはかなり作成しやすかったです。それもあって、最初に制作したものからリテイクはほとんどありませんでした。舞っていくものの量や後ろのスピード感を変えたぐらいです。

――舞っていくものの量やスピードを変えたのは、どうしてなのですか。

広沢:サビ前の部分だったので盛り上げる必要があって、3Dで徐々に舞っていくものを足していったんです。あそこは海のカットを挟んで前後で2カットあありますが、その前後カットを通して少しずつ舞っていくものが増えていくようにつくっています。

――海についてはいかがでしたか。

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広沢:中村さんからリアルなものがいいと話をいただいていたんです。ですから、あそこは実写でも使えるぐらいリアルな海を3Dで組みました。色と質感のみアニメっぽくしていて。フォトリアルにシェーディングしたら、本物の海の合成にも使えるかもしれないですね(笑)

――ここまでおうかがいして、様々なポイントにCG がつかわれていることに気付かされました。ぜひ視聴者の方々にあらためて注目していただきたいですね。

広沢:あ、いえ、自然に見えるようにしたので、むしろ注目されないほうが……(笑)。でも今回のCGは、えてしてすべて「自然に見えるようにする」が大切だったかもしれません。歯車などのループ関連のCGはともかく、総じて注目されないほうがいい。お芝居にたとえるなら、舞台装置のようなものでありたいんです。主役になりうる花火や宝石はある程度目を引いてほしいですが、それがメインになってはいけないとは思っていました。それでよりキャラクターたちのドラマが引き立ってくれていればうれしいですね。

揚田 カツオ

「ルプなな」リレーインタビュー

[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ)
テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。

作品情報

ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する

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