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特集・コラム 2019年11月25日(月)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】2019年の中国アニメは何がすごい? 何が変わったのか?

「羅小黒戦記」日本版ポスター

「羅小黒戦記」日本版ポスター

(C)北京寒木春華動画技術有限会社

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変化の早い中国のアニメーション業界だが、あとから振り返れば2019年が大きな転換点だったとなりそうだ。米国や日本に匹敵する基盤を築こうとしてきたアニメーション産業でいよいよそれを実現し、さらに凌駕していく萌芽が見えたからだ。
 なかでも制作に総合力が求められる劇場作品にこれが表れた。19年には中国産アニメーションの大ヒットがいくつも生まれた。
 まずは1月に公開された「ナタ~魔童降世~」である。中国での興行収入は約50億元、日本円で約780億円という凄まじい数字になっている。人口と市場規模が大きな中国でもこれは特別で、実写映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」に続く中国映画史上歴代第2位の大記録である。アニメーション映画でも自国作品で客が集まることを示した。
 メガヒットに目を奪われがちだが、19年には「ナタ~魔童降世~」の以外にもいくつものヒットが生まれている。11月20日段階での中国アニメーションの現地の興行ランキングは次のようになっている。

「ナタ~魔童降世~」 49億7000万元
「熊出没:原始時代」 7億1000万元
「白蛇:縁起」 4億5000万元
「羅小黒戦記」 3億1000万元

「熊出没:原始時代」は12年から続くファミリーキッズもののコメディシリーズで、毎年新作が劇場公開されている。日本で言えば「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」のような位置づけだろうか。興行収入も年々伸ばしている。「白蛇:縁起」は中国の製作会社とワーナーの中国法人が共同製作したハリウッドスタイルの大作フルCGアニメーションである。そして「羅小黒戦記」は手描きの2Dだ。
 「ナタ~魔童降世~」の数字があまりにも大きく分かりにくいが、「羅小黒戦記」でも興行収入は50億円規模だ。これまでにも15年に「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」(9億5000万元)、16年に「紅き大魚の伝説」(5億6000万元)といった大ヒットはあったが、これほどヒット作が重なったのは初めてだ。

こうした観客はどこから来ているのだろうか。そこでもうひとつのランキングを見てみたい。19年に中国公開された米国アニメーションのランキングである。

「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」 3億6000万元
「トイ・ストーリー4」 2億元
「ペット2」 1億5000万元
「アングリーバード 2」 1億4000万元

中国作品に比べてかなり興行収入が少ないことが分かる。これまで「ズートピア」(15億3000万元)や「怪盗グルーのミニオン大脱走」(10億3000万元)といった作品が大ヒットしてきた過去と比べれば不振と言っていい数字だ。特に同じフォトリアルなキャラクターアニメーションでは、「白蛇:縁起」が「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」を上回った。同じスタイルであれば、中国作品を選ぶ流れかもしれない。今後は11月22日に中国でも公開された「アナと雪の女王2」の行方が注目される。
 中国作品に観客が向かう理由は、作品のレベル向上、さらに自国文化に根差した表現の発達にもありそうだ。「白蛇:縁起」に登場する狐の妖精が艶めかしい美少女であったり、ヒロインの百合を想起させるシーンはハリウッドではありえないだろう。

19年公開作品のなかでも、いま日本で話題なのが「羅小黒戦記」である。本国では9月公開だが、小規模ながら日本でも同じ9月公開したところ、劇場が連日満員でチケットがとれない状態にまでなった。日本在住の中国人に加えて、完成度の高さが評判を呼び、日本のアニメ関係者やファンが多く劇場に足を運んでいるという。アクションも含めた作画のレベルの高さ、現代社会と妖精の関係を描いたストーリー・演出の巧みさが評価の理由だ。
 これまでも日本ですごいと話題になった中国アニメーションはあるが、なかには実制作の大半が日本や韓国への外注だったものも少なくない。しかし「羅小黒戦記」は本来の意味での中国製である。さらに優れた作品であると同時に、多くの観客に共感を呼び、ヒットさせることができる点でエポックメイキングなのである。

こんな成長を見ると、やがては中国アニメーションにより日本アニメは世界から駆逐されてしまうのだろうかと心配になってくる。しかし、そうとばかりも言えない。急成長を続ける中国アニメーションにも弱みはある。それは表現規制の問題だ。政治的にセンシティブなもの、暴力表現や性的表現などエンタテイメントにおける中国での表現規制は近年ますます強まっている。
 今年のヒット作を見ても、「ナタ~魔童降世~」と「白蛇:縁起」は中国の説話が原作、「熊出没:原始時代」や「羅小黒戦記」は家族で安心して観られる作品だ。ある意味で無難だ。そうした作品が国内だけでなく、やがて海外に輸出される日も来るかもしれない。しかし特にヒット作を生み出すという点では、制作ジャンルの偏りは避けられない。多様な作品が登場するかとなると、覚束ない。
 どんなジャンル、タイプの作品でも許容される、居場所がある。これからの日本アニメは、そんな点が強みになるのでないだろうか。

最後に19年に中国で公開された日本アニメの興行ランキングを紹介する。数字だけをみれば、何倍もの予算で制作される米国作品よりも上回っている作品も少なくない。自国産が活況を見せた19年の中国劇場アニメーションの市場だが、少なくとも現在は日本アニメの存在感はまだありそうだ。

「千と千尋の神隠し」 4億8000万元
「天気の子」 2億8000万元
「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」 2億3000万元
「ONE PIECE STAMPEDE」 2億元
「映画ドラえもん のび太の月面探査記」 1億3000万元
「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」 1億1000万元

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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