2020年11月21日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】アニメの世界企業登場か、拡大続けるアニプレックスの挑戦
■売上高2000億円超、日本アニメ巨大グループ
海外で日本アニメの人気とビジネスが、さらに拡大している。日本動画協会の調べでは2010年頃に2000億円台だった海外の日本アニメのユーザー市場は、18年に1兆円を超えた。こうした状況で日本アニメの世界企業が生まれつつある。
その筆頭がアニプレックスだ。もともとはDVDといったアニメパッケージのメーカーだが、現在は制作スタジオの運営、スマホアプリゲーム、音楽、映画配給やグッズ制作・販売などに次々と進出している。
アニプレックスとその関連会社の個別売上高は、ソニーの子会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMJP)のさらに子会社にあたるため開示されていない。それでもソニーの決算資料の音楽部門の業績からは2000億円超であることがわかる。音楽部門には「映像メディア・プラットフォーム」のカテゴリーがあり、音楽部門で映像やアプリゲーム展開をするほとんどがアニプレックスであるから、これをそのまま同社とその関連会社の売上げとみなせる。20年3月期末でこれが2139億円だ。
巨大エンタテインメトグループのバンダイナムコグループの同じ時期のアニメ事業(映像音楽プロデュース部門+IPクリエイション部門)の売上げが687億円、アニメ製作大手の東映アニメーションの売上高が548億円、海外のアニメ事業が強いとされるテレビ東京のアニメ事業が215億円。これらを比較すれば、アニプレックスの巨大さが理解できる。
■パッケージメーカーでなく、総合エンタメ企業
事業が大きく成長した理由のひとつは、スマホアプリゲームの成功にある。アニメタイトルを活用したスマホアプリゲーム事業は、昔はアニメ会社はゲーム会社にライセンス販売をするだけが多かった。ゲームがヒットしても業績への影響は限られる。しかしアニプレックスは「Fate/Grand Order」や「マギアレコード 魔法少女まどかマギカ外伝」で自ら製作出資し、その大ヒットで巨大な売上げを得ることができた。
この豊富な資金を新規事業や新分野への進出、さらに企業買収や出資に投じることで、一大企業グループを構築する。いまやアニプレックスはアニメパッケージメーカーではなく、総合エンタテイメント企業に変貌している。
それでも年間売上高2000億円は、総売上高8兆円のソニーでは必ずしも大きな事業ではない。しかし決算報告などでアニプレックスの業績がたびたび言及されるなど、グループ内で注目されることが増えている。
アニプレックスが重要なのは売上高というよりも、利益の大きさである。売上高の大きなエレクトロニクスで主要事業がしばしば巨額な赤字を計上するなかで、アニプレックスは高い利益率で安定して業績に貢献している。さらに成長率が高く、グループ内で存在感が増すエンタテイメント分野のなかでも海外に強く、アニメ市場自体も拡大している。次世代のグローバル事業というわけだ。
■海外のアニメ事業でソニーグループの中核に
アニプレックスのもうひとつの躍進の鍵は海外にある。05年に米国法人Aniplex of America Inc.を設立し、ここでもライセンス販売だけでなく自ら現地で流通・販売、プロモーションすることで成功を収めた。さらにフランス、ドイツ、オーストラリアで現地法人をグループ化、アジア進出とそのネットワークを拡大していく。
近年の驚きは、海外事業を米国のファニメーションと事業統合したことだ。ファニメーションは北米最大の日本アニメの配給企業で市場シェアも高い。同社は17年のソニー・ピクチャーズエンタテインメントの子会社が当時約165億円で買収していたが、米国拠点のソニー・ピクチャーズと日本の音楽事業が中心のSMJPの子会社であるアニプレックスは決して近い関係ではなかった。
それが20年2月に、アニプレックスはフランス、ドイツ、オーストラリアのグループ会社をファニメーション傘下に移管し、同時にソニー・ピクチャーズと伴に、ファニメーションに出資した。
グループ全体で、グローバルのアニメ事業を推進するソニー本体の強い意志が示された。同時に、その中核にアニプレックスとファニメーションがおかれたことになる。
海外事業では中国も忘れてはいけない。北米と並ぶ巨大市場であるうえ、日本コンテンツの人気も高く、将来の成長性が期待できる。ただし規制も少なくなく、難しい市場でもある。
ソニー本体は今年4月にその中国で日本アニメ事業をする最大手ビリビリに約430億円の出資をした。資本関係を通じて関係性を強める。
注目すべきは、ビリビリは19年にファニメーションと事業提携を結んでいることだ。つまり3社がそれぞれ結びつきを持ち、日本、米国、中国とアニメの3大市場をネットワーク化する。これが今後グローバルで大きなパワーを発揮するかもしれない。
■さらなる巨大化がもたらす懸念
こうした成長を続けるなかで、先頃、10月末に気になるニュースが報じられた。日本経済新聞が独自の取材として、ソニーが米国企業クランチロール買収の最終交渉にはいったというものだ。クランチロールは日本アニメの海外配信の世界最大手、グローバルではもうひとつの日本アニメ関連の巨大企業である。現在はソニー・ピクチャーズのライバルであるワーナー メディアの傘下にある。2つが一緒になれば、グローバル市場でライバルはほぼなくなる。
買収金額は1000億円を超えるのではないかともするが、報道に対してソニーは否定も肯定もせずに沈黙を守る。しかし報道のように買収を交渉中で、さらにそれが実現するとなるとアニメ業界へのインパクトは大きい。
長年、日本のアニメ業界にはグローバル規模で戦える大企業がないと言われてきた、しかしアニプレックスを中心としたグループは、いまやその規模に到達しつつある。海外の巨大企業との交渉でも大きな力を発揮するはずだ。日本企業が主体となって、海外にアニメを発信する文化産業でのグローバルなイニシアチブも期待できる。
ただし他の日本企業にとっては、ソニーグループのコンテンツが海外で優先されるのでは、自社コンテンツが十分ビジネス展開できないのではとの懸念をもたせることになる。
もちろん日本のアニメ業界は、長年にわたり築かれた複雑に張り巡った資本関係、人脈で強い相互依存関係にある。そうではあっても他の大手アニメ企業にとっては、グローバルビジネスにおけるソニーグループへの依存度が高くなり過ぎることに必ずしも賛成とはいかないはずだ。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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願いの成就とひきかえに、人知れず戦い続ける魔法少女たち。しかし環いろはは、自分の願いを忘れてしまっていた。『魔法少女になった時、私は何を願ったんだっけ?』。日常の中にぽっかりと空いた穴。失われて...
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