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特集・コラム 2020年12月31日(木)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】新型コロナから「鬼滅」、ジブリまで2020年5大トピックス

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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2020年もいよいよ最後、そこで今回は1年のアニメ業界を振り返ってみたい。特に注目されるトピックス5つを取りあげた。

【2020年アニメビジネスの5大トピックス】
・新型コロナウイルス感染症の広がり、制作に大きな影響
・劇場アニメ「鬼滅の刃」が空前の大ヒット
・スタジオジブリの新たな挑戦
・ソニーがアニメ世界配信のクランチロール買収を決定
・Netflixのオリジナルアニメ拡大

■新型コロナウイルス感染拡大に対応力を発揮したアニメ業界

ニュースのトップは、やはり新型コロナウイルス感染症の影響だ。1月の中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症は短期間に世界中に広がり、あらゆる経済・文化活動に影響を与えた。アニメ産業も無関係ではなかった。
 当初は中国に発注する作画作業の遅れ、そしてすぐに国内での感染症予防対応による制作の遅れや映画興行の縮小・延期に波及した。春から夏にかけてはテレビアニメの再放送や延期も相次いだ。

特に影響が大きかったのは、ライブ系エンタテインメントの中止・延期・縮小である。イベントやライブ、舞台、コラボレーションカフェなど。近年アニメは多角事業展開での利益が増えており、なかでもライブエンタテインメントは急成長分野だっただけに打撃は大きい。
 国内ではAnime Japanやコミックマーケット、アニメロサマーライブなど主要イベントが軒並み中止、さらに海外でも主要イベントが中止やオンライン開催に追い込まれた。これらはビジネスの縮小だけでなく、ファンと作品のつながりを弱める点でも痛手だ。

それでも様々な工夫と努力もあり、年末までにはアニメ制作は従来ペースに戻りつつある。国内アニメ産業の危機対応力が発揮された。
 20年のアニメビジネスは、売上高、市場規模で落ち込みが予想される。しかしライブの壊滅的な痛手や作品納品の遅れは発生したものの、配信やEC販売もありアニメ業界全体では当初の予想よりは耐性力を発揮しそうだ。

■映画興行国内最高へ、「鬼滅の刃」のメガヒット

一方「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の空前の大ヒットは明るいニュースだ。10月16日の公開以降、話題を目にしないことがない。12月28日には興行収入が324億円を突破し、「千と千尋の神隠し」316億8000万円を超えて歴代最高に達した。コロナ禍での映画興行の落ち込みを大きくカバーする。日本経済新聞では作品ヒットの経済波及効果は少なく見積もっても2000億円以上と報道している。
 作品のヒット分析は多くの人がしているのでこの場では触れないが、重要なのは経済効果だけではない。多くのエンタテインメントが縮小を余儀なくされるなか、エンタテインメントの楽しさを思い返し、細心の注意を払いながらも、文化活動を続けることの大切さを伝えた。

■いつでも新しい、スタジオジブリの挑戦

2つの大きなニュースのため印象が薄くなりがちだが、アニメでは他にも注目すべき動きがあった。20年の「鬼滅の刃」以外の注目すべき作品に、スタジオジブリ作品を挙げたい。
 「なぜ、いまジブリ?」という声もあがりそうだが、変化の激しい時代にいち早く適応し底力を見せつけた。14年から国内新作映画がないなかで、作品やスタジオジブリのブランドを継続する様々な施策を打ったからだ。

ブランド健在をみせつけたのは、6月26日からの「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ゲド戦記」のリバイバル上映だ。新型コロナの影響で新作公開が大幅に減った時期に、往年の傑作を大規模全国上映し、26億2000万円もの興行収入となった。
 体験型エンタテインメントで、作品を常に思い起こさせる施策も相次いでいる。19年から続く「高畑勲展」、コロナ禍で21年に開催延期となったが米国アカデミー映画博物館では「宮崎駿展」も予定されていた。また愛知県の「スタジオジブリパーク」の22年開業や基本デザインも、今年発表されている。
 極めつけは、9月にスタジオジブリ公式サイトで突如発表された全作品の場面写真公開だ。アニメ業界では、これまで場面写真利用は厳しく管理されていた。これをファンが無料で利用できるようにした。自由に使ってもらうことで、作品の認知度をあげる狙いがあるのだろう。

また12月30日には、宮崎吾朗監督の最新作「アーヤと魔女」がNHK総合で放映された。スタジオジブリの初めての長編3DCG作品である。本作はカンヌ映画祭でオフィシャルコンペティションに選ばれ、米国では映画会社が配給権を得ている。それを日本ではテレビ映画として展開する。映画の初出は映画館に限らないとの発想だ。
 スタジオジブリは常に新しいものに取り組み、いまもそれが続いている。それこそがスタジオジブリが長年愛される理由である。

■ソニーがアニメ世界配信のクランチロールを買収

海外アニメビジネスが急拡大する一方で、グローバルなビジネスの主導権は海外企業に握られがちとしばしば指摘される。なかでもアニメ流通の重要なインフラとなった配信プラットフォームは、NetflixやYouTubeといった米国の巨大IT企業の独壇場になっている。
 そうしたなか11月にソニーがグループ会社ファニメーション・グローバルを通じて米国のアニメ配信会社クランチロールの買収決定を発表した。クランチロールは全世界に9000万人の登録ユーザーと300万人以上の有料会員を持つ、世界最大のアニメ配信プラットフォームである。買収金額は約1200億円にも達する。
 日本企業がグローバルなアニメ配信のネットワークを押さえたことは、今後のアニメ展開の変化も感じさせる。近年のアニメ・マンガ関連の一部日本企業はかつてないほどのスピードで、海外ビジネスの開拓を進めている。そうした流れのひとつとでもある。

一方で世界から日本のアニメに進出する動きも続いている。世界最大の有料ユーザーを持つ米国の配信プラットフォームNetflixのアニメに対する攻勢は勢いを増している。オリジナルアニメは、その最たる例である。9月に都内で開催された「Netflixアニメフェスティバル2020」では「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」「バイオハザード:インフィニット ダークネス」「範馬刃牙」「スプリガン」など16作品ものオリジナルアニメが取り上げられた。
 オリジナルアニメの性格も変わりつつある。18年に始まったNetflixとアニメスタジオとの包括的業務提携は、20年には9社に拡大した。2月にはCLAMP、樹林伸、太田垣康男、乙一、冲方丁、ヤマザキマリといった作家、マンガ家、原作者とともに作品開発していくパートナーシップも発表した。アニメの流通だけでなく、作品創出の根幹へ進出を強めている。
 日本から海外、海外から日本、双方向でアニメビジネスの流れは強まっている。さらにそれは国境を意識しない「アニメ」というグローバルな概念の世界を築き始めている。20年以降、こうした流れはさらに強まりそうだ。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編

劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 24

炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が無限列車に乗り込むシーンで終了したテレビシリーズ最終話から繋がる劇場版。

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