2015年9月25日（金）20:00

「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー野村和也監督後編間口の広い「攻殻」を作るために

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊新劇場版」製作委員会

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野村和也監督へのインタビュー後編。「攻殻機動隊新劇場版」はどのようにして作られていったのか。間口を広くして、より多くの人が楽しめる「攻殻」を作るために工夫した点などを詳しく聞いた。

「攻殻機動隊新劇場版」の脚本打ち合わせの場で、「最初は緊張しまくっていました」と野村監督は語る。

「打ち合わせに参加する人間の数も多くて、どう進めていったらいいのか最初のうちは分からなかったですね。隣に総監督の黄瀬（和哉）さんがいらしたんですが、あまりしゃべられないんですよ。『お好きに』とおっしゃるんですが、『もうちょっとヒントをもらえませんか』と思ったりもしました（笑）。『新劇場版』では、『ARISE』からの流れをまとめなければならないですからね。いきなりやってきた僕が決めてしまっていいのだろうかと悩みました」

戸惑いながら始まったシナリオ打ち合わせで、野村監督が出したアイデアのひとつが「2人の素子」というキーワードだった。

「素子がもう１人の自分に出会うシチュエーションを作りたかったんです。『ARISE』は、押井さんの『攻殻』の前日譚を描くエピソードですよね。その前段階で、素子がドッペルゲンガーに出会っているのはどうだろうかと思ったんです。押井さんの『攻殻』は素子が死ぬというか、生まれ変わるという話だったので、死の予兆であるドッペルゲンガーを登場させると綺麗に繋がるんじゃないかなと」

脚本打ち合わせでは、水のシーンを作ることも提案したという。物語終盤、あるキャラクターと素子の別れを描く場面で、素子は水の中を浮かんでいき、反対に相手は沈んでいく。

「普通、人間は浮くけれど、サイボーグはフロートをつけないと沈んでしまいますよね。そうした前提の中で、サイボーグの素子が浮かんで、生身の人間である相手が沈んでいく対比の構造は面白いなと思ったんです。僕の中では、人間の世界が終わり、これからサイボーグの時代がやってきますよ……という象徴になるようなシーンにできればなと。対比の構造は、全編にわたって色々やっていますので、注目して見てもらえればと思います」

「新劇場版」の見どころのひとつは、多彩なアクション描写。コーネリアスの劇伴をバックに、肉弾戦、銃撃戦など迫力のバトルが繰り広げられる。当初は、ここまでのボリュームになる予定はなかったそうだ。

「最初は、頭とお尻ぐらいにと考えていたんですが、中盤にも盛り上がりがないともたないのではないかという意見が出たんです。それで情報収集艦まわりの戦闘も追加したら、ものすごいボリュームになってしまって。これでも、あとから省略しているぐらいなんです」

「攻殻機動隊新劇場版」場面カット

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊新劇場版」製作委員会

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アクションを増やしたのは、I.Gの石川氏から最初に「エンターテインメントな『攻殻機動隊』を作ってほしい」と言われたことも影響しているという。

「マニア向けや大人向けというよりは、もう少し間口を広げて、より多くの人が見て楽しめるようなものにしてもらえたら……という話があったんです。エピソード的にも、やっとメンバーがそろって部隊が動くところだったので、各メンバーに焦点をあてた見せ場となるようなアクションを作ろうと。そうして、どんどんボリュームが膨らんでいったんです」

間口を広げるような作り方をしていくなかで、印象的だったのは、素子がトグサから渡されたサンドイッチを頬張るカットの作画修正だったと野村監督は語る。

「作画監督の大久保さんの修正段階では、普段の素子がムスッとしながらパクッと食べるぐらいだったんですよ。それが黄瀬さんの方で、やるならここまでっていう感じに、ガブッと表情を崩した絵をあげてこられたんです。あそこは、『ARISE』や『新劇場版』でしか見られない素子の表情だと思います。他の九課のメンバーも、士郎（正宗）さんの漫画にある表情を拾って、これまでより少しくだけた感じにしています。バトーとか漫画だとすごく表情豊かじゃないですか。『新劇場版』でも、トグサから『仕事しようぜ、先輩』とか言われるぐらいの気安い感じをだしています」