2020年5月6日(水)19:00
【明田川進の「音物語」】第37回 伊藤かな恵さんとの対談(後編)プラスアルファが求められる今の声優
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後編は、伊藤さんがアーティスト活動をはじめられたきっかけ、歌で自分を表現するさいに考えていることなど、明田川さんのアドバイスを交えながら展開。声優の仕事の幅が広がりつつあることについて、お2人が感じていることも話題にあがりました。
──前編の最後に明田川さんが言われたように、最近は1クール作品が多くて、2クール以上の作品のほうが珍しくなってきた印象があります。
明田川:そうですよね。
伊藤:ありがたいことに、私は長く続く作品に関わらせていただくことが多くて、今も続いている「キラッとプリ☆チャン」シリーズは、「プリティーリズム」シリーズの頃から数えると10年ぐらいやらせていただいていて。
明田川:そんなに長いんだ。
伊藤:私が演じるキャラクターだけがずっと生き続けているんです。「赤井めが姉ぇ」という、めが姉ぇさんが世界をつないでいるといいますか。もともと私はゲーム筐体のほうで主人公の女の子(※天宮りずむ役)を演じていて、アニメ化されたときに、お姉さん的なポジションを演じることになり、その後もシリーズとおして長く出演させていただくことになりました。
──佐天涙子役で出演されている「とある科学の超電磁砲」も長いシリーズですし、主人公の松前緒花を演じた「花咲くいろは」は、今も地元で「ぼんぼり祭り」が続いています。
伊藤:どれも大好きな作品です。作中のお祭りが放送後も続いているのは、本当にすごいことですよね。両作品とも仁さん(明田川進さんの息子で、音響監督の明田川仁氏)とご一緒させていただいていて。
明田川:伊藤さんが歌をやりはじめたとき、CDのジャケットに仁の車がでたことがあるんですよ。
伊藤:デビューシングルです(笑)。
──「大正野球娘。」のエンディング主題歌にですか?(※「ユメ・ミル・ココロ」2009年8月発売)
伊藤:ランティスのプロデューサーの方と仁さんが仲良しだったそうで、私の知らないところで借りたとあとで聞きました。まさか、あんなふうに使われるとは仁さんご存知なかったんじゃないかと思います(笑)。
──他のインタビューで、「大正野球娘。」の挿入歌を歌ったことがアーティストデビューのきっかけになったと話されていました。
伊藤:そうなんです。1話で挿入歌を歌ったところ、ランティスさんから「エンディングも歌ってみませんか」と言っていただけたのがデビューのきっかけでした。
明田川:伊藤さんはいろいろな才能をもっていましたからね。歌もそのひとつで、チャンスをつかむきっかけは周りからだったかもしれないけど、それをものにするのは結局本人ですから。歌手デビューして今年(※2019年)で10周年でしたっけ。もうベテランみたいな顔をしているよね(笑)。
伊藤:いやいやいやいや(笑)。まだまだ、これから頑張ります!
──伊藤さんは、歌手活動をはじめられた頃、いかがでしたか。
伊藤:最初はすごく迷いました。やっぱり演じることが好きなので、キャラクターソングなどは役としての気持ちがあってこその歌なので、演じる延長としてとらえられるのですが、自分自身を歌で表現するというのが最初はどうしても分からなくて(苦笑)。「伊藤かな恵が恋の歌を歌うとは、どういうことなんでしょう?」みたいな、風変わりな話し合いをしたこともありました。
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明田川:(笑)。
伊藤:それぐらい分からなかったんです(笑)。歌手活動は今も、いただいた楽曲を伊藤かな恵としてどう表現したらいいのか自分なりに模索しながらです。先日も、年末のライブ(※19年末に開催された「伊藤かな恵 10th Anniversary LIVE『カナエルケシキ』」)の話し合いをしたのですが、お客さんを目の前にして恋の歌を歌うという表現とは一体なんなんだろうという話をいまだにしています。お芝居が好きなぶん、自分発信で何かをすることが、ちょっとだけ苦手な部分があるのかもしれません。
明田川:恋の歌を歌うなんていうのは、いちばん上の部分に“芝居”があるんじゃないのかな。
伊藤:うーん……表現するのは大好きなんです。レコーディングなどで、もっとこういう表情を出して歌いたいです、というのはすごくあります。それが、目の前にお客さんがいると、「楽しませたい脳」と「歌を表現したい脳」が戦ってしまって……(笑)。まず盛り上がってほしいし、目の前の人を笑顔にしたいと思ってしまうんです。
明田川:その「笑顔にしたい」という部分が、“普段の伊藤かな恵”だよね。
伊藤:はい。
明田川:だったら普段とは別の、ステージならではの“伊藤かな恵”になったらどうだろう。それこそ中島みゆきさんみたいに。
伊藤:(思いもよらない様子で)はあー。
明田川:そんな伊藤さんのステージを見た人たちは、芝居と一緒で「今回もまた何かやってくれるかもしれない」と、次も足を運ぼうと思うようになる。そういうコーナーをひとつ作ると面白いんじゃないかな(笑)。
伊藤:なるほど! たしかに、「曲になると(人が)ガラッと変わりますね」と言われることは多いです。直前までは、いろいろ考えてしまうのですが、スイッチが入ってしまえば芝居と一緒でスッと入っていけます。やっぱり、お客さんと一緒にこの空間、この時間を楽しみたいなというのがいちばんにありますので。
明田川:そこで楽しむと同時に、お客さんを脅かしてやるのも面白いと思うけどね。
伊藤:脅かす!!
明田川:フフフ(笑)。
伊藤:ライブで自分をもっと上手くコントロールできるよう、今後も頑張っていきます。
──伊藤さんが声優のお仕事をはじめた頃は、声優が顔出しの仕事をするのは普通のことだったと思います。歌を歌われることもそのひとつですし、今では舞台やゲーム実況など、いろいろなことをすることが求められていて。
伊藤:自分が出てっていうことですよね。
──はい。伊藤さんご自身も、声優になろうと思ったきっかけは「HUNTER×HUNTER」のラジオだと話されていて、ラジオは顔を出すわけではありませんが、アニメから派生するお仕事のひとつですよね。声のお仕事以外に、いろいろなことをされていくことについて、変化を感じられたことなどありますか。
伊藤:もともと私はアニメが好きなので、最初から声優は裏方の仕事だと思っていました。なので、仕事をしはじめた当初、自分の写真が雑誌に載ることに、なんとなくの戸惑いはあったように思います。表にでるのはあむちゃん(※伊藤さんが演じた「しゅごキャラ!」日奈森あむ)なのに、なぜか私の写真も出ている? っていう不思議な感覚はありました。
そんな私の頃よりも、今デビューする人たちのほうが、よほど大変だろうと思います。歌やダンスができることも当たり前で、そうしたお芝居プラスアルファの部分が今はすごく求められているように感じています。
明田川:求められているものが、アイドルと重なる部分が出てきていますよね。ただ、それはすでに声優としてできあがっている人への要求ではなくて、そもそも歌える子や踊れる子、そのうえで芝居ができるみたいな子が今は多く入ってきているじゃないですか。その時点で覚悟してきているから、当人たちが悩むことはあまりないような気がします。
伊藤:そうですね。むしろ、そういうことをやりたいと入ってくる人もいますよね。
明田川:今はプラスアルファの部分をやりたい人のほうが多いと僕は感じています。最近いろいろなところで教えていると、「私は、こういうアニメをやりたいわけではない」と思っているであろう人がいるんですよね。例えば、「私はナレーションをやりたくて、この世界に入ったのに」とか。
伊藤:はー、もう、1つに決めている人もいるんですね。
明田川:教材としてアニメを使っていますから、そう感じること自体はよく分かるんです。ただ、授業ではたまたまアニメを題材にしているだけで、アニメの声をやりなさいと言っているわけではないんですよね。教えるときも「リアルな芝居をしてください」と言っています。仮にナレーションを志望していても、声で自分を表現するさい、絶対に芝居づけの勉強になるからやったほうがいいですよと。本人がそれで納得してくれているかは分かりませんけれど。
それぐらい、今は声優といってもいろいろな目的をもっているなと感じることが多いです。そのなかで伊藤さんがやってきたように、歌を歌い、いろいろなイベントにも出るのは、昔でいうアイドルがやってきたことですよね。
伊藤:そうですね。
明田川:そうして築かれたものを見て入ってくる今の人たちは、芝居だけでなく、アイドル的なものも目指している人が半数以上いるように僕は感じています。もちろん、そのなかでも芝居をする楽しさや大変さは昔から変わっていないですし、それ以外の「歌を歌う」「イベントに出る」ことについては、むしろ今の人たちは喜んでいるんじゃないかな。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
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