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特集・コラム 2023年7月29日(土)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第28回 セルルック3DCGアニメ、10年の到達点

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2023年1~3月、セルルック3DCGアニメを手がけるスタジオ3社によるテレビアニメが同時期に放送されていた。サンジゲン制作の「D4DJ ALL Mix」、ポリゴン・ピクチュアズ制作の「大雪海のカイナ」、オレンジ制作の「TRIGUN STAMPEDE」、それぞれ各社の個性と進化が感じられる力作ぞろいだった。
 セルルックは2Dルックとも呼ばれ、本来は立体的な3DCGをあえて平面的に見せることを言う。厳密に分けるのは難しいが、ピクサーやイルミネーションの作品、国内作品だと「STAND BY ME ドラえもん」「アーヤと魔女」などはキャラクターの頭身が低いこともあって一見セルルックに見えるが、表面の質感は立体的でフォトリアルなためセルルックには分類されない。
 サンジゲン、ポリゴン・ピクチュアズ、オレンジは個人的に注目しているアニメ制作会社で、手描きのアニメーションを好むコアアニメファンに向けて、3DCGで手描きアニメ風に見せる工夫をこらしながら独自の表現を追求し続けている。

2013年に深夜アニメで挑戦

10年前の2013年、サンジゲンは「蒼き鋼のアルペジオ ―アルス・ノヴァ―」(原作:Ark Performance)でセルルック3DCGによる30分のテレビシリーズに初めて挑戦した。リアルタイムで当時見ていて、児童向け作品やショートアニメではなく深夜のテレビアニメ、しかもいわゆる美少女を描く作品として全編3DCGのシリーズに取り組むチャレンジに驚かされたのをよく覚えている。3DCGでつくられたキャラクターは手描きに比べるとまだまだぎこちないところもあったが、同作の企画のクレバーなところは、ヒロインである女性キャラクターたちが人間ではなかったことだ。艦隊が擬人化された存在である彼女たちは、3DCGによる違和感もこみでかわいいと評判になり、15年には劇場アニメ2作も制作された。
 19年にブシロードと資本提携を結んだサンジゲンは、ブシロードによるメディアミックスプロジェクトのアニメ化を多く担っている。「BanG Dream!(バンドリ!)」を筆頭に、女性キャラクターがメインのライブ描写がある音楽ものがほとんどで、似た傾向の作品を連続して制作することでノウハウが蓄積されていると思われる。また、3DCGアニメは最初の3DCGモデルの制作に多大なコストがかかるが、「BanG Dream!」ではテレビシリーズ2作(※6月29日から新シリーズ「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」が放送中)とテレビスペシャル、劇場アニメ5作、そのほか多数のアニメミュージックビデオを手がけることで、同じキャラクターが何度も登場し、制作の効率化がはかられているようだ。

最初に挙げた「D4DJ ALL Mix」も、ブシロードによるプロジェクトが原作のテレビシリーズ第2作。登場キャラクターが多く、ほぼ毎話のラストにはライブシーンがある制作カロリーの高い内容が遊び心たっぷりに描かれた。特に凄いと思ったのはライブシーンの観客の描写で、テレビアニメでは暗闇に多数のペンライトが揺れるだけ(アイドルものアニメでよく見られるお約束の表現だが、さすがに毎回これだと飽きてくる)なことが多いなか、音楽にのって飛び跳ねている観客たちの姿をしっかり描いているのは3DCGの特性にあったフレッシュな表現だと唸った。

世界観を見せるオリジナル

ポリゴン・ピクチュアズは、サンジゲンの「蒼き鋼のアルペジオ」とほぼ同時期の14年、弐瓶勉氏の漫画「シドニアの騎士」を原作にしたテレビシリーズで深夜アニメの世界に乗り出した。「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」など海外のアニメシリーズを多く制作していた同社は、当時まだ日本ではサービスを開始していなかったNetflixと直接契約して海外配信を実現したのも新しい試みだった。
 同社のセルルックは、日本の手描きアニメに寄せているというより海外の漫画のようなテイストが感じられて(※編注)、海外でも人気の高い弐瓶氏の漫画との相性が抜群によかった。17年には弐瓶氏の「BLAME!」もポリゴン・ピクチュアズが劇場アニメ化し、今回の「大雪海のカイナ」は弐瓶氏とタッグを組んだオリジナル作品である。
 地表に雪の海が広がり、巨木の軌道樹が天までそびえる世界で、滅びる寸前の人類が水を求めて争う。設定そのものに秘密が隠されている世界観をじっくり見せていくつくりで、とくに背景美術に力が入れられているのに目を引いた。背景美術にも3DCGを取りいれて制作している部分があるそうで、弐瓶氏のイマジネーションを映像に落としこむため、これまでのノウハウを越えた試みが多くなされていることがうかがえた。テレビシリーズの続きが描かれる劇場アニメ「大雪海のカイナ ほしのけんじゃ」(10月13日公開)も楽しみだ。

動きの快楽を見事に表現

17年に「宝石の国」で初めて元請けとしてアニメーション制作を手がけたオレンジは3社のなかで後発にあたるが、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズ(02~06)で多脚戦車タチコマ登場部分のアニメーションを手がけるなど、セルルック3DCGに長年取り組んできたスタジオだった。「宝石の国」(原作:市川春子)も「蒼き鋼のアルペジオ」と同じくキャラクターは人間ではなく、不死の体をもつ擬人化された宝石という設定で、セルルック3DCGとのマッチ感がある造形美と見ごたえのあるアクションシーンが注目を集めた。続く「BEASTARS」(19、21年/原作:板垣巴留)では擬人化された獣たちの群像劇に挑み、顔の表情がとても豊かに表現されていたのが印象に残っている。
 「D4DJ ALL Mix」「大雪海のカイナ」と同時期の1~3月に放送され、放送後にシリーズ完結編の製作が発表された「TRIGUN STAMPEDE(トライガン スタンピード)」は、内藤泰弘氏によるガンアクション漫画が原作。1998年にマッドハウスがテレビアニメ化しているが、世界観やキャラクターを新たに構築した新作として制作された。手描きアニメとしてすでに世に出され、しかもそれが世界中で人気を博しているなか、あえてセルルック3DCGで再度アニメ化する。そんなハードルの高さを軽々と超える1話の凄まじいアニメーションには驚かされた。

とにかくキャラクターが動いて、表情もころころ変わる。ときに顔芸にすらみえるちょっと過剰な表情付けや、カートゥーン的な奔放でコミカルな芝居が心地よく、手描きアニメでしか味わえないと思っていた動きの快楽がここまで見事に表現できるのかと、セルルック3DCGアニメの限界を超えた感覚があった。(「大阪保険医雑誌」23年4月号掲載/一部改稿)

編注:近年のポリゴン・ピクチュアズは、美少女アニメ的なルックの「エスタブライフ グレイトエスケープ」(22)も手がけ、10月27日から劇場で先行上映される「アイドルマスター シャイニーカラーズ」もひかえている。
 ちなみに、8月18日から先行上映される「アイドルマスター ミリオンライブ!」は、「revisions リヴィジョンズ」の白組がアニメーション制作を担当。異なるスタジオによるセルルック3DCGの「アイドルマスター」シリーズ2作が同時期に公開されることになる。

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

D4DJ ALL Mix

D4DJ ALL Mix 19

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