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特集・コラム 2024年2月24日(土)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第34回 「ナニワ金融道」と“青木雄二ユニバース”

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連帯保証人になってはいけない。手形の裏書きをしてはいけない。儲け話を信用してはいけない(本当に儲かるのならば自分の金でやればいいのだから、人に持ちかけるわけがない)。「ナニワ金融道」を読んだ人は、こうした教訓が胸に刻まれているはずだ。久しぶりに全巻を再読して、あらためて唯一無二の面白さがあることを確認できた。

「ナニワ金融道」の魅力

大阪を舞台に、街金の帝国金融に入社した青年の目をとおして借金にまつわる人間模様を描いた同作は、1990~96年の7年間、「週刊モーニング」で連載され、中居正広氏主演でテレビドラマ化されたほか、2005年と22年には別キャストとスタッフで実写映画化もされている。
 著者の青木雄二氏は工業高校卒業後、電鉄会社の社員、キャバレーのボーイ、パチンコ店員など職を転々とし、漫画家になる前に経営していた写植・版下のデザイン会社を借金で倒産させ、そのときの経験が「ナニワ金融道」に色濃く影響している。仕事をしながら20年以上短編をこつこつ描いて投稿し続け、「ナニワ金融道」が45歳での連載デビューだった。編集部内で推したのは担当編集者と編集長だけだったそうで、5回の短期連載としてスタートし、読者からの熱烈な支持をうけて本連載となった。
 連載第1回では、主人公の灰原達之が違法すれすれの帝国金融を訪れる前に別のまともな金融会社の面接をうける姿が描かれる。筆記試験は満点、面談の印象もよかったが、灰原にサラ金での借金経験があることが本人に知らされないまま機械で調査され、不採用となる。金利の高いサラ金で金を借りるような人間は信用できないというわけだ。納得のいかない灰原が不採用の理由を聞くと、面接担当者は雇うか雇わないかは会社側の勝手だとうそぶきながら、「金を貸す貸さんもこちらの勝手や 金融業とはそういう考え方で成り立っとんのやで!!」と言い放つ。冒頭に挙げた連帯保証人や手形の裏書きをはじめ、「ナニワ金融道」では一貫して知らないと損をしたり、悪徳業者などに食い物にされてしまったりする金融や契約の知識が、地に足のついたドラマのなかで描かれていた。
 作中に登場する街の看板や契約書の文字も詳細に描き、スクリーントーンは一切使わない。手描きの魅力にあふれた泥臭い絵柄も物語に絶妙にマッチしていた。「ナニワ金融道」連載終了後も青木氏はエッセイストとして健筆をふるったが、03年に肺がんで58歳の若さで亡くなっている。

没後も続く関連作品

青木氏の没後も、青木氏の作風を色濃く残した“青木雄二ユニバース”とでも言うべき作品群が多数生み出されている。
 本家の青木雄二プロダクションは、続編「新ナニワ金融道」など多くの関連シリーズを送りだし、「ナニワ金融道」に登場した若き地上げ屋・肉欲棒太郎のその後なども描かれた。最近では、主人公・灰原の先輩社員である桑田澄男にスポットをあてたスピンオフ「桑田澄男の華麗なる日常」も連載中だ。ちなみに、福本伸行氏の「賭博黙示録カイジ」、真鍋昌平氏の「闇金ウシジマくん」も同様のスタイルでスピンアウトが展開され、その先鞭をつけたのが「ナニワ金融道」ではないかと思っている。泥臭い絵柄と、ギャンブルを通して描かれるヒリヒリした人間ドラマや哲学が魅力の「カイジ」には「ナニワ金融道」に通じる魅力があり、東京を舞台に現代的なカジュアルな借金の怖さをデジタルを駆使した絵で描く「闇金ウシジマくん」には、対照的だからこそ21世紀版の「ナニワ金融道」と言いたくなる共通点が感じられる。
 分家筋の筆頭は、常盤貴子氏と深津絵里氏の主演で実写ドラマ化もされた「カバチタレ!」シリーズ。生前の青木氏が監修にたち、「ナニワ金融道」の最後のエピソード「海事代理士編」のアイデアを提供した田島隆氏が原作、青木氏の元アシスタントの東風孝広氏が作画を担当し、タイトルを変えながら1999年から2021年まで長期連載された。田島氏と東風氏には、法律の裏をかく探偵事務所が舞台の「極悪がんぼ」シリーズもある。
 青木氏の唯一の小説「桃源郷の人々」のコミカライズも、ぜひ読んでもらいたい。青木氏の遺作となる物語が、風俗ルポ漫画などを手がけてきた佐藤量氏による情念あふれる作画で堪能できる。単行本2巻の巻末に掲載された青木氏による原作絵コンテ(ネーム)も緻密で見ごたえがあり、これだけで本にしてもらいたいと思ってしまうぐらいだ。

踏み越えなかった人々

最近愛読していて、「孤独のグルメ」や「東京都北区赤羽」のように深夜ドラマ化されるのを楽しみにしている「定額制夫の『こづかい万歳』~月額2万千円の金欠ライフ~」の著者、吉本浩二氏も青木氏原案の「日掛け金融地獄伝 こまねずみ常次朗」(原作:秋月戸市)で連載デビューしている。
 吉本氏は青木氏のアシスタント出身ではないが、今風の絵柄ではなかった「ナニワ金融道」に衝撃と影響をうけたことをインタビューで話しており、連載デビュー作の「こまねずみ常次朗」も“青木雄二ユニバース”の1作だった。その後、「勝ち組フリーター列伝」「ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~」などのノンフィクション漫画の作画を担当し、自身を主人公にした私(わたくし)ノンフィクション漫画「日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周~」からは原作者なしで作品を発表している。
 漫画家になる前に映像制作会社に勤めた経験もある吉本氏は、ドキュメンタリー映画の素養もあったのだろう。「淋しいのはアンタだけじゃない」では、耳が聞こえない人たちが世界をどう感じているかを丹念に取材し、そのイメージを漫画で描いた大変な意欲作だった。静かな場所をあらわす「シーン」というオノマトペは漫画ならではの表現だが、生まれつき耳が聞こえない人はそうした擬音を目で楽しむことで、世の中に色々な音があることを知ったという。作中には、耳が聞こえていた人が突発性難聴で失聴し、頭のなかでものすごい耳鳴りがなっている様子も絵として描かれ、“聞こえない”にも様々なレイヤーがあることが分かる。森達也監督の「FAKE」の被写体になった佐村河内守氏に取材した様子も描かれ、すごい取材漫画だと楽しみに読んでいた。
 連載中の「こづかい万歳」は、二児の父である吉本氏の金欠の日々を赤裸々かつユーモラスに描くエッセイ的な要素と、トリッキーな方法でこずかいライフを楽しむ人々を取材して人となりを描く「家ついて行ってイイですか」的な要素があわさったライトな作品で、吉本氏の温和な人柄と、自分の駄目なところもしっかり描く誠実さが感じられる。「ナニワ金融道」は、青木氏がつけた「踏み越えてしまった人々」というタイトルを没にして編集部がつけたものだったが、その伝でいうと「こづかい万歳」は、お金に困っても「踏み越えなかった人々」のライフハックが描かれていると言ってもいいかもしれない。(「大阪保険医雑誌」23年11月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

「C」

「C」 5

余賀公麿(よがきみまろ)。都内の経済学部に通う大学生。カレの夢は平凡に暮らすこと。公務員になりマイホームを持つこと。幼い頃に父親が蒸発、程なくして母親も病死し、母方の叔母に育てられた公麿は現在、...

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