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特集・コラム 2018年12月27日(木)19:00

【まなおのアニメ感想戦!】第1回 花の湯温泉から、ただいま。

(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

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◆はじめに
 2018年、数多くの作品を観たなかで、一番記憶に残ったのが「若おかみは小学生!」でした。9月21日に公開された本作は、12月18日に表彰式が執り行われた第43回報知映画賞では、(昨年から新設された)アニメ作品賞にノミネートされました。原作は児童向けの図書ですが、大人のかたにこそ見てほしい「若おかみは小学生!」の魅力を、ほんの少しご紹介させていただきます。

◆アニメだからこその魅力。アニメでなければ、見られなかった作品
 美麗なアニメーションの中には、温泉旅館《春の屋》精神性までが丁寧に描き込まれています。包丁には切っている玉子焼きが、テーブルにはお料理の食器が映り込んでいて、旅館のかたが真心込めて磨いている姿が浮かんでくるようです。あまりの細やかさに、2回、3回と鑑賞するうちにようやく気づく描写がいくつもありました。ひょっとしたら気づかれないまま終わってしまうかもしれないけれど、誰かのために、そして自分のためにこだわることの大事さが伝ってきます。旅館の方々のお客様への気遣いが、アニメーターの方々の作品への想いと重なって感じられるのです。

(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

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◆魅力的で愛おしいキャラクターたち、ひとりひとりから学ぶこと
 交通事故で両親を亡くし、祖母が女将をつとめる《春の屋》旅館に住まうことになった小学生の関織子ちゃん(通称:おっこ)。旅館に住みつく幽霊・うり坊の懇願を受けて、若おかみとしての修行がはじまります。小さな《春の屋》には、自暴自棄になっている歳の近い少年、どこか落ちこんでいる美人占い師さんなど、悩みや心に傷を負ったお客様が入れ代わりに訪れます。他にも秋好旅館のひとり娘でライバルの真月ちゃんなど、一癖もふた癖もある愉快な人々と出会い、ときに別れながら、おっこちゃんは修行の日々を送ります。まわりの人たちの悩みのひとつひとつを、おっこちゃんは若女将としての自分の課題と受け止め、一生懸命向き合っていきます。その過程でそのひとりひとりが、おっこちゃんに対してさまざまな経験を授けるのです。まるで両親の事故で傷ついたおっこちゃんが、少しずつ前に進むために必要な相手が集められたかのように。観客と一緒におっこちゃんを見守るその姿に気づくと、最後にはすべての人たちが愛おしくなっています。

(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

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◆「受け容れる」というテーマ性
 おっこちゃんが学んでいくこと、それは「受け容れる強さ」です。不慣れな仕事に励むおっこちゃんは「旅館の仕事ってたいへん」「普通のお客様だったらよかったのに」とこぼすこともあります。さらには、ひとの悩みを解決しつつも、「両親の死」という重い事実に、向き合わざるを得なくなっていきます。そんな時、女将である祖母は優しく諭し、ときに叱咤激励します。

「花の湯のお湯は、誰も拒まない。動物も、人間も、全て受け容れる。神さまからもらったお湯だからね」

この作品のテーマは、単なる成長物語ではなく、「遠方より来る全てのものを拒まず、受け容れて癒して、そしてまた遠方へ送り返す」というものです。おっこちゃんは、時折誰かや現実を拒みそうになりながらも、少しずつ受け容れる心を身につけていきます。女流棋士として勝負の世界に15歳から身を置いている私は、自分の歩んできた道を否定すること、苦しいときに自分を追い詰めることが原動力でした。それは今まで将棋指しなら避けられないことと割り切っていましたが、本当に苦しくて、本当の強さって、否定し続けることの中にあるのかなぁ……。

そんなときに出会ったこの作品と、おっこちゃんたちの生きざまは、あたたかい温泉のように自分を包み込んでくれました。ぼろぼろと溢れてきた涙は、作品に対してだけでなく、自分の中のどこかいちばん響いたところから流れてきたように思えるのです。

◆すべての人を受け入れる、春の湯温泉そのもの
 細やかなおもてなしと、こだわりでいっぱいの本作は《春の屋》旅館そのものといえるでしょう。
温泉に癒されて帰ってゆくのと同じように、映画を観た人が、自分の元いた場所でまた頑張れる。そんな作品です。

そんな《春の家》の魅力は少しずつ知れ渡り、いまでも全国で上映は続いてます。あなたも花の湯温泉に足を運んでみませんか?

香川 愛生

まなおのアニメ感想戦!

[筆者紹介]
香川 愛生(カガワ マナオ)
日本将棋連盟女流棋士。15才でプロ入り後、女流王将2期獲得、現女流三段。受賞歴は女流最多対局賞・女流棋士賞など。ゲーム、コスプレなど、多彩な趣味を活かし将棋普及活動にもいそしむ。著書は「職業、女流棋士」(2018)。

作品情報

若おかみは小学生!

若おかみは小学生! 4

6年生のおっこは交通事故で両親をなくし、祖母の経営する旅館”春の屋”に引きとられる。そこに住みつくユーレイ少年・ウリ坊や、転校先の同級生てライバル旅館のあととり娘の真月らと知り合ったおっこは、ひ...

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