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特集・コラム 2019年1月25日(金)19:00

【まなおのアニメ感想戦!】第2回 私と映画をつなぐ弦

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◆はじめに

今お話してもあまり信じてもらえないのですが、つい先日まで映画館にほぼ縁がなかった私。どういうわけか2017年秋(風邪を引いて熱を出していたのですが)ふらふらと足を運んだ新宿バルト9で出会ったのが、「KUBO/クボ -二本の弦の秘密-」でした。
 古きよき日本を舞台にした、折り紙へ命を吹き込む不思議な三味線を奏でる少年「クボ」の物語。着物、灯篭流し、落ち葉の船……アメリカ発だと忘れるほど美しい和の心と「わびさび」に溢れた情景の中、傷を負いながらもたくましく進むクボの旅路には、胸と目頭がじわじわ熱くなりました。
 物語を見届けた余韻のまま、ぼんやり熱心地の中眺めていたエンドロール中……突然メイキング映像(のちに知りますが、スタジオLAIKAの作品では恒例でエンディング中に紹介されるのです)が流れてきて、一気に目が醒めました! 本編に登場した巨大ながしゃ髑髏を吊り上げる無数のワイヤー。そのとき初めて、本作品がストップモーションアニメだと知ったのです。
 その後、パンフレットや公式サイトを穴があくほど読み込みました。3秒の映像を撮るのに平均1週間!? あの船の撮影だけで1年半以上!? なんて途方もない……。そうでなくても記憶に残るストーリーなのに。知れば知るほど愕然とすることばかりで、散々打ちのめされた後、風邪を治したわたしの映画館通いがはじまりました。観るたびに気づきがある、また観なくては、とするうちに、いつの間にか8回(!)も鑑賞。不器用な誘いに応じてくれた友人たちへのお礼にパンフレットを配るなんて経験も、人生で初めてのことでした。

◆ポートランドへ

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翌春、スタジオLAIKAのあるアメリカ・ポートランドで期間限定のセット展示があると聞いた次の日には、2泊4日(人生初)の弾丸旅行の切符をゲットしていました。
 ポートランド美術館の入口で歓迎してくれたのは、例のがしゃ髑髏。LAIKA史上最大規模の4.9メートルに圧倒されながら踏み入れた展示室には、過去4作品分の世界がぎゅーっと小さな空間に凝縮されていました。手のひらサイズのパペット。さらにそのわらじや着物の家紋は、もう爪先よりも小さいものです。腰をかがめて目を細めて、前のめりで見入っては進み、立ち止まっては進み……を繰り返し、気付けば小部屋の中で何時間も過ごしていました。
 胸をいっぱいにした美術館からの帰り道、ふとピンク色の夕焼け空を仰いだとき、遠くに見えた白い山肌にドキリとしました。それはマウント・フッド――オレゴンの富士山と呼ばれる有名な山だそうです。それは劇中の、とある印象的なシーンと同じ景色でした。
(あのときは富士山だと思っていたけれど、もしかして、この山を重ねていたりもするのかな)
 そう考えている間にも日は落ちてしまいました。写真におさめることはかないませんでしたが、「クボ」や、ひょっとするLAIKAのかたと同じ景色を見れたのかもという高揚感と共に、その景色は今でも心の中に残っています。

◆if you must bling, do it now.

邦訳は「瞬きすらしてはならぬ」。この映画の冒頭の言葉です。思えば映画も旅行も、名残惜しさが去来する刹那の出来事のようでした。そして同時に、ずっと胸に残る永遠の物語でもあります。
 一瞬にこそ、魂をこめる。私も10年以上、同じことを心がけて盤に向かってきました。尋常ではない“コマ撮り”も、本作の「物語」のために注ぎこまれたもの。きっと作る皆さんにとって十分すぎる理由なんだろうなと、今では思えます。

昨年の目標「新作映画100本鑑賞」は、「クボ」に傾倒しすぎる自分と冷静な周囲のギャップがこわいとか、映画を知らなさすぎて勧めきれなかったのが悔しいとか、今考えても負けず嫌いの私らしい決心でした。はじめこそ意地でしたが、今では「クボ」がつないでくれた映画の世界が大好きです。今年の私は、どんな景色を観るのでしょうか。

香川 愛生

まなおのアニメ感想戦!

[筆者紹介]
香川 愛生(カガワ マナオ)
日本将棋連盟女流棋士。15才でプロ入り後、女流王将2期獲得、現女流三段。受賞歴は女流最多対局賞・女流棋士賞など。ゲーム、コスプレなど、多彩な趣味を活かし将棋普及活動にもいそしむ。著書は「職業、女流棋士」(2018)。

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