2024年2月19日(月)19:00
第3話絵コンテ・演出担当・境宗久に聞く、剣舞としての社交ダンス 【「ルプなな」リレーインタビュー第4回】
シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第4回は、第3話にて絵コンテ・演出を担当した境宗久さんに、ダンスシーンを中心に話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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スーパーマンにしない理由
――境さんはどのような経緯で本作に参加されたのでしょうか。
境:HORNETSさんからのお声がけでした。いろいろお世話になっていたなかで「これもやってもらえませんか」となって。そのあと原作を読んで面白かったのでお引き受けしたんです。
――いわた監督から作品全体の演出面については聞いていたのですか。
境:最初に「この作品は、あまりアニメ的表現を使わないようにしたい」と聞きました。たとえばデフォルメやイメージシーンなどは基本的に使わない方針でしたね。あと、リーシェはちゃんとお嬢様で相応の品格もあるとか……。シーンごとでいうと、アルノルトの本心も聞きました。「ここでこんなことを考えていますが、それは絶対表情には出しません」と(笑)
――ああ。裏設定に近い、深いところまでお話は聞いていた。
境:そうですね。僕は原作者の雨川(透子)先生と直接お目にかかってはいないのですが、いわた監督から「雨川先生はこうお考えなので、そこは大事にしてほしいです」と伝え聞いていました。
――デフォルメにしない方針ということは、いわた監督はリアリティを大事にされていたのですか。
境:ひとつは、作品に対して絵空事ではない説得力がほしかったのかなと。もうひとつは緊張感ですね。これまでの人生でいろんなスキルを身につけて、なんでもこなすリーシェですが、最終的に生きのびるのか……そういう緊張感はあるわけじゃないですか。そこをしっかり残すために、リーシェをただのスーパーマンにしてはダメなんだと思いました。
――いわゆる無双系の主人公のような、最強人間ではないわけですね。
境:ええ。今までのスキルを最大限に生かして、どう切り抜けていくかが作品の面白さなんだと思ったんです。
――絵コンテ・演出を担当された第3話は、夜会に侍女の選定と、見どころの多い話数だと思います。監督から、この話数についての要望はありましたか。
境:いちばんはダンスシーンをしっかり描いてほしいと。3話の見せ場ですし、アルノルトとの関係性もふくめて、緊張感も盛りこまないといけない。見せ場だけではなくて、ストーリーにダンスがかかわっていることを視聴者に示さないといけないので、そこも大事にしてほしいとお話がありました。
――「境さんといえばダンス」といった印象も最近はあるのですが……。
境:なぜか、やたらまわってくるんですよ。やりたいと言ったわけではないのですが(笑)
作画で描かれるダンス
――これまで「ゾンビランドサガ」でアイドルダンス、「ダンス・ダンス・ダンスール」ではクラシックバレエと、ダンスシーンが重要なアニメを手がけられていますから、知見の蓄積がかなりあったと思うのですが、そのあたりは今回役に立ったのですか。
境:「ダンスール」側のスキルが役に立ちましたね。「ゾンビランドサガ」はダンスシーンが基本フルCGなんですよ。それとストーリーにある程度関連した歌ではあるのですが、ダンスシーンそのもののなかで物語が進むことはないんです。
――独立した見せ場としてダンスが存在していたわけですね。
境:ええ。曲間にセリフがあったり、動きに合わせてセリフを言ったりはなかった。とにかくアイドルライブとしていいものを作ろうという方針で。
たいして「ダンスール」のときは、レッスンや舞台をやりながら、主人公のモノローグがあって、さらにそれに合わせて振りをやらないといけなかった。そこが非常に大変で……。しかも、モーションキャプチャーで一回撮ったものを下敷きにつつ、作画でおこしたんです。
――CGを使いつつも、最終的には手描きの作画になっているわけですね。
境:そうですね。「ルプなな」もモーションキャプチャーで撮ったものを、作画でおこしてもらう方式だったので、近いものがありました。
――今回、ダンスシーンのために本編とは別でスタッフを組んだとうかがいました。あらためて制作のフローをうかがえればと思うのですが。
境:まずこのシーンのために新たに楽曲をつくってもらいました。そのうえで一度振りを付けてもらい、その振り付けを確認して。今回は手を組みかえる芝居や、リーシェの踊りを阻止する芝居なども細かくいれないといけないので「ここでこういう動きをつけてください」とそこで指示するんです。まあ、振り付けをお願いした方(福島桂子)も、シナリオは読みこんでくれていたので、しっかり入れてくださっていたのですが……。で、振り付けが固まったところで、アクターの方々(新舞美、村上雅貴)により、モーションキャプチャーを撮ります。実際にセリフをしゃべりながら踊ってくれたりして。そこはすごく参考になりました。
――あ、絵コンテのあとにモーションキャプチャーではなく、シナリオをもとに先にモーションキャプチャーを撮るのですね。
境:そうなんです。その撮ったもので絵コンテにおこしつつ、いろんなアングルでカットを振り分けていくんですね。
――カメラワークは絵コンテの段階で境さんが考えられていたと。
境:はい。で、絵コンテに起こしたあと、そのコンテに合わせたアングルをお人形状態のCGキャラクターで撮ってもらうんです。動きがどう入るかもその段階でチェックして、そこがOKになったら、それに合わせてアニメーターさんに作画をお願いしたんです。
意識したのは「その場の空気感」
――ダンスシーン作画監督を務められた立中(順平)さんは「ゾンサガ」にも関わられていると思うのですが、そのご縁で入られたのですか。
境:HORNETSさんのほうから、「立中さんにお願いできるかも」と言われたんです。「それはもう、本当にぜひお願いします。もう本当に立中さんがいいです!」って(笑)
「ゾンビ」の前に「アイドリッシュセブン」のミュージックビデオ(「ナナツイロ REALiZE」)をつくったことがあったんですよ。そのときに、CGでおこして動きをつくってもらって、そこからアニメーターさんにおこしてもらう流れでやっていたのですが、そのときに立中さんが、全部それをラフでおこしてくれたんですよ。服や髪の揺れも全部おこして、そこから各アニメーターさんにお願いしたんです。そのときの芝居付けが本当に良くてね。そのあと「ゾンビ」も一緒にやったのですが、そのときの動きも素晴らしくて。
――なるほど。では今回もラフな動きは立中さんがつくったわけですか。
境:カットごとに原画担当のアニメーターさんがいるのですが、彼らがつくった動きに対して、レイアウト作画監督の時永(宜幸)さんや、レイアウト総作画監督の田中(譲)さんの手元に行く前に、揺れものなどの動きの細かいところのラフを立中さんにのせてもらっています。だから今回は立中さんがゼロからおこしているわけではなく……、いやまあゼロからおこしているようなところもあるか。
――(笑)
境:けっこうやっていましたね。だから、そこ(原画と作画監督陣)の間に入ってもらって、ダンスや揺れものの動きを都度見ていただいたんです。
――先にフローのお話をしましたが、絵コンテで設計されるときに、社交ダンスであることは意識しましたか。
境:社交ダンスなので動きとしてはゆったりさせています。ただ、リーシェが思うアルノルトに対する緊張感があるので、対峙して勝負を挑むところは、あまりゆったりとしたものにならないように、なるべく細かめにカットを割りましたね。
――モーションキャプチャーがあるにも関わらず、細かくカットを割るのは、ある意味贅沢なのではないですか。全身ずっと映して踊る選択肢はとらなかったわけですよね。
境:そうですね。リーシェの緊張感をどうだしたらいいのか。ゆったりした動きのなかで、そこをどうやればだせるかを考えたんです。ダンス的には揺れものがあるから、そこももっと生かせないかとも思ったのですが、やりだすとさらにカットが細かくなって……(笑)
――ひらひらしている部分をフィーチャーするようなことも設計段階であったわけですね。でも実際、かなり揺れはありますよね。
境:アルノルトはマントもしていますしね(笑)。リーシェもフリルが多めのドレスですから作画さんが苦労されたと思います。
いつもこういうとき、コンテを切りながら考えるのは、その場の空気感、臨場感なんです。ちゃんとカメラをおいて2人を捉えている感じをだしたくて、あまりきれいに収まりすぎないようにしつつ、でも決めるところはかっこよく収める。その塩梅が大事だなと。ラフに端折っているところと、しっかりカメラが捉えているところとのギャップで、その場の空気感がだせたらいいかなと思っていました。
――ライブ感的なものですね。
境:ええ。それも緊張感に繋がっていくだろうと。
手の表情
――いまカメラの話をされましたが、カメラワークやレンズの選択のこだわりはありましたか。
境:望遠が多いと思います。なぜかというと、モノローグが多いシーンになるので、あまり広角ばかりにすると、第三者目線が強くなりすぎるんです。だからリーシェのモノローグではがっつり寄るし、踊っているところも遠くから2人を狙っているような望遠にする。2人の空気感を意識したんですよね。
――一方で広角も使われていますね。
境:ええ。急に超広角にもしているんです。望遠や標準レンズが多いなか、急に超広角のカットを入れると、不安定感が出るんですよ。望遠ばかりだと安定しすぎてしまうから。でも2人の緊張感があるなかに急に広角が入ると、そこだけ違和感があって不安感につなげられるといった意図はありました。アルノルトの腕をナメてその奥にリーシェがパースつけているみたいなやつとか(笑)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――挿入されるカットでは、手のアップも印象的でした。
境:手の芝居、手の色気はすごくこの作品にとって大事だなと思っていたんです。全体に手のアップは作画さんにこだわってもらいました。ダンスシーンもそうですが、その前の「あなたの婚約者をお披露目ください」と手をだすところもこだわったつもりです。リーシェの柔らかさやアルノルトの男性的な色気のある手……手袋はしていますが、形でそういう表情を出してほしいと。
――手の表情ですか。
境:そうですね。表情って顔も大事だけど、ふたりとも高貴な出身で、見目も麗しいわけだから。手の表情まで行き届かないと、その感じはでないんです。
――剣舞的な部分と、周りのモブから見れば上品な部分を感じとれないといけない部分、そのバランスには苦労されたと思うのですが。
境:そうですね。踊りの後半、急にスローにしているのですが、そういうところは傍から見ると、この2人はこんなにもきらびやかに見えるのだと意識してやった部分ですかね。
――一方で、ストップモーションの止めもありましたが、あれはどういう意図で入れているのですか。
境:あのあたりで「これほど近いのに間合いに踏み込めている気がしない」とセリフが入るのですが、ずっと動いているとそう見えないから(笑)。リーシェがアルノルトの腕のなかにいるような絵をじっくり見せた方がいいなと思ったんですね。
リーシェとアルノルトの表情差
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――ダンスシーンで、アルノルトとリーシェ、お互いの性格について何か意識されたことはありますか。
境:どちらかといえばリーシェがバタバタして、アルノルトはそれほど大きな動きはしないようにと。表情はいわたさんに「ニコニコしすぎないようにしてください」「落ち着いたアルノルトらしい、冷たいぐらいの表情でも大丈夫です」と言われて、リーシェは表情豊かにやって、そこの差はしっかりだせるようにしたほうがいいとは思いました。
――なるほど。アルノルトがちょっとアオり気味で、表情を微妙に変えるようなところもあったと思うのですが、あのあたりは難しかったのでは。
境:そうなんです。加減が難しいんですよね。あのあたりはリーシェの主観的なところもあって「何をしても無駄とでも言いたげね」とモノローグで言ったりするので。軽くいなすというか、余裕の雰囲気はあったほうがいいかなと。
――リーシェから見たアルノルトのイメージですね。
境:硬い表情にしすぎると、アルノルトも緊張しているように見えてしまいそうで、薄いほほえみぐらいにしたんです。表情でいうと、リーシェは少し険しめの表情をつないで見せないといけないし、さらに周りからは優雅に見えないといけないから、そこの塩梅も大変でしたね。基本的にはカットの心情に合わせて芝居をさせているのですが、スローモーションのところはきれいに見えるといいなと思ったり、ストップモーションのところも、きらびやかさ的な効果は撮影さんにもだいぶ頑張っていただいて。ただ、いわたさんはイメージには振りすぎないとおっしゃっていたので。あそこは半分その感じがあったから、探りながらやりました。その場にいる感じはちゃんと残しつつ、周りから見た視点として、ああいうイメージは必要だろうと。
――最後に倒れそうになるところは一瞬、曲が止まりますよね。
境:そうですね。曲なりにいくと、すぐ終わってしまうので。タメがどうしてもつくれなかったので、リーシェの緊張感で音をなくして最後の「ジャーン!」につなげられたらいいかなと思って。あそこは絵コンテの段階で切り離したんです。
リーシェへの共感を大切に
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――ダンスに関しては大体お話をうかがえたと思いますが、このシーン以外でポイントにしたことはありますか。
境:ひとつ挙げるとすれば、洗濯場のシーンですかね。シナリオ上はその場にきて会話していたのですが、美術設定があがってきたら、階段の高いところがあったんですよ。「じゃあ見おろす感じのほうが、お互いの関係値が出るかな」と思って、ああいう絵作りにしたんです。高低差がだせると、画面的な奥行きもでますしね。やってみて面白かったです。
――この話数のハイライトだと、侍女選定もあったと思うのですが、意識されたことはありますか。
境:さっきの洗濯場と違って、リーシェがうえから目線にならないように気をつけました。彼女をアオって偉そうに見せるようなことにはしない。侍女たちと同じ目線にしようと。
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――ここで感動した視聴者の方も多かったようですね。
境:それは素直にうれしいですね。3話はまだ序盤で、リーシェがあの国にきて日が浅いですから。リーシェにちゃんと共感してもらえたんだとしたら、すごくうれしいです。
――リーシェが朝目覚めて、バタバタするようなところにも、リーシェらしさが見える気がしました。
境:そうそう。まだきて日が浅いから、表の顔をするときは緊張感があるのですが、部屋で起きたときは大きく伸びをして、寝ぼけまなこだったり、慌てて服を着替えてみたり。そういう部分もあっていいのかなと。それが自分の思うリーシェのリーシェらしさだったんです。
「ルプなな」リレーインタビュー
[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ) テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。
作品情報
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ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する
公爵令嬢リーシェ・イルムガルド・ヴェルツナーには秘密があった。それは『20 歳で命を落としては5年前の婚約破棄の瞬間に戻る』こと。商人、薬師、侍女、騎士など様々な生き方を存分に満喫してきたが、7...
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