2024年3月23日(土)19:00
美術設定・滝沢麻菜美、美術ボード・金井眞悟に聞く、リーシェたちの個性を反映した美術【「ルプなな」リレーインタビュー第7回】
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第7回は美術設定を担当した滝沢麻菜美さんと美術ボードを担当した金井眞悟さんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)
「ここの花瓶の絵はどういう形なんですか?」
――滝沢さんは美術設定、金井さんは美術ボードを担当されていますが、それぞれどういう役職だったのでしょうか。
滝沢:美術設定は作品に登場する主要な建物や場所を、線画でデザインする役職です。
金井:美術ボードはそのあとの工程で、背景のシーンごとに対する色味をつけていき、装飾などのディテールを足す作業ですね。どちらも基本的にはあくまで実作業の参考資料で、画面として出ている背景を描くのはまた別の方々なんです。ボードの場合は本番ボードといって、そのまま素材として使用することもあるのですが、例外的なものですね。
――ほかの役職として「美術監督」もありますね。小木曽(宣久)さんが担当されていますが。
金井 そうですね。今回の場合、美術監督は最終的に画面にでる背景をチェックする役割でした。そもそも美術の点数が多かったので、そういう人間が必要だろうと。なので、視聴者が見ているのはそこで全部管理され整えられたものなんですね。
――なるほど。あらためて、この作品の当初の印象はいかがでしたか。
金井:装飾品が多くて大変そうかなと。ボードは、びっちり描く場合と、あえてディテールを省略する場合があると思うのですが、今回の場合はキャラクターのバストアップでうしろに映るものに情報をいれたいとうかがっていたので、ボードの段階で雰囲気だけにすると、寄った芝居のときに困るかなと思ったんです。そうなると、装飾のデザインをある程度固めてボードで出さないといけない。「これは大変そうだ……」と(笑)。花瓶なんかも、前半ではわりと省略して描いていたのですが、「ここの花瓶の絵はどういう形なんですか?」と監督から話があって(苦笑)。そういう細かい装飾品に気をつかったのが、「ルプなな」の特徴的、かつ大変だったところだと思います。
――滝沢さんも、美術設定作業はかなり大変だったのでしょうか。
滝沢:自分はこれがはじめての担当でして。
――あ、「ルプなな」ではじめて役職に就かれたのですか。
滝沢:はい。会社の上司からは、もうちょっとゆるい作品と聞いていたのですが……(笑)。打ち合わせを経るにつれ、監督から世界地図とか設定がだされていくと「これは怖い作品だな」と。
――怖い(笑)。ゆるめなファンタジーだと思われていたのに、しっかりした原作設定がでてきて、ちょっと驚かれたんですか。
滝沢:タイトルでは、よくあるタイプのループものに見えたので……。ただ原作の内容を読むと深みがあって、これぐらいやっても仕方ないのかなと。
――さきほど地図があったとうかがいましたが、それを最初に見せられたのですか。
滝沢:国同士の位置関係ですよね。そこまでしっかりした原作設定があるとは思ってなくて。当初はヨーロッパのどこかぐらいのイメージだったのですが……。
――実際、多田(周平)さんと伊良波(理沙)さんも美術設定の役職に就かれていますが、それも当初のイメージより大変だったからなのでしょうか。
滝沢:自分が初担当だったので、最初先輩の方が何人かついてくれていたんです。世界観を作るのに少し手助けしていただきました。
キラキラの離宮もリーシェの手にかかると
――監督から美術の指針はありましたか。
滝沢:特徴的だったのは照明ですね。謎の光は入れたくないとおっしゃっていて。
金井:時代物の映画っぽさを狙ったようでした。少女漫画にしたくはないと。リアル80パーセントくらいのイメージでした。
――地に足のついた感じですか。
金井:あまり簡略化させたくなかったようです。中世イメージだとはうかがっていたので、そういう画面づくりにしたいと。前に自分が美術監督としてやっていたのが「ヴァニタスの手記」という作品で。あれはコントラストが強くて吸血鬼ものだったのですが、映画っぽい雰囲気という点で今回と近いところがあるのかなと。「ヴァニタス」では、ピンポイントでそういう場所が出てきたのですが、こっちは画面にでているのが基本お城なので……。「とにかく華やかにしたい」とは最初に言われていました。
――さきほど装飾物に気をつかったと聞きましたが、それも華やかさを増すためですか。
金井:止めや、会話で話が進むシーンが多いので、そのときに壁に見えた一面が何もないと、他が豪華でも印象に残りづらいという話になって。なので、目線の高さに装飾物をいれたいということでした。壁に何もない面がほぼないんですよね。
主城・応接室
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――言われてみれば、たしかに。
金井:そこは最初から最後まで一応ちゃんと守れたかなと。それとキャラクターが衣装もちなので……。
――そこは「ルプなな」の特徴のひとつですよね。
金井:そうです。ただ、そうなると背景色とキャラの色が被って溶けこんでしまうことがあって。なので、シーンごとにキャラとは色をはずすのを決まりごとにしていました。
――そのシーンごとのキャラクターの衣装と外した色をおいている。
金井:アルノルトは何か羽織っていても色が近いのでいいのですが、リーシェが話数によって違うので。(衣装が)決まっているものは事前にはずした色をつくったのですが、あとから衣装もでてくるので、そこも外れているのかわからずに進めてはいましたね(笑)。とくにリーシェの部屋が苦労したんですよね。リーシェはいろんな衣装を着て登場しますから。いくつもパターンをつくりました。
離宮・リーシェの部屋・リビング(夜)
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金井:リーシェは割と白っぽくて、アルノルトは黒いけど青っぽくて……そう考えると(部屋の色に)ピンクと青が使えないんですよね。ずらしながらやっていたのですが、結局はこんな感じの色になりました。壁の色が何度かごっそり変わっているんです。ここがいちばんリテイクがでていますね。
――でも最終的にリーシェっぽい雰囲気になっていますよね。
金井:模様替えしてこの部屋になっているので、リーシェの好みがでていて、ギラギラしていないんですよ。同じ離宮でもエントランスは主城の色に近いんです。
――ああ。そうなんですか。主城と離宮は基本的には一緒なんですね。
金井:わりと威圧感のある、コントラスト強めの色が入っていて、お金もいっぱいある感じです。でも、リーシェが手をいれたところは、そこからちょっと切り離された世界なんです。ベースの傾向としては一緒で紋様もあまり変化がないのですが「リーシェが好みで整えたらこうなるよ」というイメージで色をつくってみました。アルノルトの部屋も、性格を考慮して、ギラギラさせすぎず、シックにしているんです。
離宮・アルノルトの寝室(昼)
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――少し落ち着いた感じですね。
金井:離宮におけるアルノルトの私室も、リーシェの手にかかってしまうと、ギラギラしたものがどんどん減らされていくんですね(笑)。
――アルノルトの私室は、7話でかなり出てきますよね。
金井:ええ。離宮においては、リーシェの手が入っているか、いないかの差をだすように、というのが監督の意向でしたね。
――差別化、という点でいうと、リーシェの故郷であるエルミティや、カイルがいたコヨルといったお城との差別化もしないといけなかったのではないですか。
エルミティ王国の王城・夜会ホール(夜)
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滝沢:ガルクハインとエルミティの違いは、威圧感のあるなしですね。ガルクハインはもう少し四角イメージでつくっていたんです。エルミティのレリーフは草系で、ふにゃふにゃした優しい感じ。柱も「割り」がいっぱい入っていて、線が多いイメージです。小規模にはしてほしいと監督から指示がありました。
金井:エルミティはやたらと金が多いですね。
――金要素はありますが、ガルクハインほどの威圧感はないですね。
金井:そうなんです。ガルハインは広間がグレー基調で、色数も多め、金も多めなんですよね。こっちの方が「豪華かつ、他国に見せつけるために威圧してやろうぜ」みたいな感じがあって。エルミティはお金をもってはいますけど……。
――少し淡白ですね。
金井:ボードが同時進行だったこともあり、そこは対比でだしたいなと。色数も違うし、同じ赤でも、ガルクハイン側を強い赤にしています。
――大きさも全然違いますよね。
金井:ガルクハイン側は5、6階ぐらいの建物が普通に天井ぶち抜きになっていて、この高さなんです。
――コヨルはどうでしたか。
コヨル国・冬の風景(昼)
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コヨル国・城・カイルの寝室
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滝沢:異国感がでればなと。城の形から違う、船を渡った先にある別の国のお城感がでればいいなと思っていました。あと戦(いくさ)ができない感じは大切にしました。
金井:コヨルは街全体が戦争する気がないから、あまり威圧感が出ないような配置にしています。ガルクハインとくらべて強めの色変化がないんです。はじめから戦争するつもりはないです、というつくりに色のほうでしています。
――もうぱっと見の印象で、ガルクハインが強そうに見えますね(笑)
お兄ちゃんの真似をするテオドール
――続けてガルクハイン皇都の主城についてお聞きできますか。
滝沢:シーエンジス城についてはドイツ、スペイン、フランスと、いろんなお城の雰囲気の雰囲気を参考にしました。いろいろな国のお城が組みあわさってできているんです。
――参考写真もあったんですね。
金井:町全体は「青い屋根と白い壁にしたいです」とうかがっていたので、色味の雰囲気で参考にしたのは、フランスかなと思います。ただ、建物の構造自体はもういろいろだし、装飾物も同様ですね。この装飾物が難しくて。お城で見ていくと、特定の王族のモチーフになっているものが入っていたり、宗教ものがどうしても入ってくるんですよ。でも、これは異世界の話なので、そこが匂ってくるとノイズになるし、問題があるだろうと。なるべく避けてやりました。
――難しい話ですね。
金井:また、今回はリーシェが畑で薬草を育てていたりと、植物がキーになっているので、装飾物も植物モチーフを多めにしているんです。フランスの王室モチーフとしてフルール・ド・リスがあるのですが、これが使いやすいんですよね。ただ、そのままは使えないので、そういったモチーフを少しずつ崩していました。だから、絵そのものより装飾を考える時間のほうが長かったんです(笑)
――ちなみに、こういう感じがお得意ではあるんですか。
金井:「ヴァニタスの手記」も舞台がフランスだったので、資料的に使えそうなものも多いし、まさに前世のスキルが役に立ってくれました(笑)。ぱっと見で西洋感を感じてほしいんです。東洋との交易がある雰囲気があまり出てこない、そういうイメージでやっていました。
滝沢:私としては、最初本当に描けなくて「やばいな」と。ただ、だんだん楽しくなってきて、そのうちにキャラクターによって形を変えたりして……。
――キャラクターによって形を変えるというのは……。
滝沢:アルノルトの執務室なんかは、あえて全体に意匠としてとがらせたりしています。
――ああ。さきほどの離宮におけるリーシェのように、キャラ性に寄った部屋にしているんですね。
滝沢:全部豪華な部屋なので、そういうところで違いをださないといけないかなと。
――テオドールも執務室がありましたが、アルノルトとは違うのですか。
滝沢:いや、そこはむしろほぼ同じにしてほしいと言われたんです。テオドールがアルノルトを真似しているんです。机も一緒なんですよ。
金井:ただ、部屋の広さは違うので、そこは明確な違いがあるんですけど。
離宮・アルノルトの執務室(昼)
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主城・テオドールの執務室(昼)
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金井:ちなみに、テオドールがリーシェをさらってきた屋敷でも、お兄ちゃんの座るあたりだけ、しっかり気づかっている感じなんです(笑)。アルノルトが触らなさそうなところはまったく手をつけていなくて。
皇都外れの一室(夜)
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――たしかに、不自然にボロボロですね(笑)
金井:椅子、机周りとその周辺だけは気をつかって。リーシェが捕まっていた部屋はほこりだらけなんです。こっちは全部汚れている感にしてくれと監督から話があって。
滝沢:そもそも、この屋敷は高さのある建物なので平民の家ではないんですよ。昔貴族が使っていた建物を利用しているんだと思います。
――屋敷内はかなり暗いですよね。
金井:他の場所と差を出したいという話がありました。雰囲気自体を変えたいとのことで、かなり暗めにしています。ライティングの明るさも赤さがでるようにしたいと。
カーテンの開け閉めだけでも
――「ルプなな」は設定の数でいうと、一般的な作品と比べてかなり多いのでしょうか。
金井:室内をこれだけつくるのも珍しいと思いますね。
滝沢:設定はそれほどでもなかったかもしれませんが、ボードについては時間帯によっての色の違いがあるから、多くなっているのかもしれないですね。
金井:そうですね。ライティングを守るのが大事だったので、数が多いんですよね。ライティングを変えることで、影つけも変えようという話があったんです。リーシェの部屋がいちばんでてくることが多くて、カットの多いものはいくつかボードの段階で、光に応じた影つけをしているんです。夜だと、中央に置いてあるランタンの光源にしているのですが、ランタンが移動すると光っている範囲も変わって、影つけが変わるんですよね。
離宮・リーシェの部屋・寝室(夜)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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離宮・リーシェの部屋・寝室(夜)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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金井:キャラクターの立ち位置でも影つけは変わるので大変でしたね。
――4話でリーシェが自室に戻ってきたときに、アルノルトが待っていたあたりの影つけには雰囲気を感じましたが、こんな工夫があったんですね。
金井:監督のこだわりだったんだと思います。このリーシェの部屋は全灯状態っぽい背景になっているときと、そもそも光の影響力が一定の範囲しかないパターンがあったんですよね。
離宮・リーシェの部屋・寝室(夜)
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――このボードだと、ランタンが3つ付いていて、さらに燭台もあって、上からはシャンデリアもあるみたいなことなんですね。このあたりの光の加減は、後工程の撮影処理だけで表現する場合もありますよね。
金井:そうですね。でも今回はボードの段階でやったんです。とにかく「ルプなな」は光源の仕込みが多いんですよ……。芝居内容によっては光源をあえて忘れることもあるのですが、仕込みは多いのでそれを忘れないでくださいと。「このカットではここがついてないです」みたいな前提があって、各スタッフが作業するんです。
――なるほど。その話数の芝居や演出にもかかわってくるんですね。
金井:ええ。こういうことを設定の段階でやるのは、じつのところ珍しいんですよ。時間帯の明確な変更があった場合は、当然「昼、夕、夜」でボードに色を付けるのですが、今回は昼でもカーテンが全部閉まっているときの色と、開けたときの色で違うみたいな(笑)
――同じ昼色でもカーテン開けと閉めバージョンがあるんですか? それは相当大変ですね。
金井:セル(※この場合はキャラクターのこと)の影色を(カーテン開けとカーテン閉めで)別につくるという話だったので、ボードもそれにあわせないといけなくて。そういうところは 点数をさいてやりました。背景も大変ですけど、セルの色彩なり撮影さんも相当時間がかかっているんじゃないかと思います。
――暗さにはこだわりがあったということですよね。
金井:あ、そうだ。室内に入ったときにノーマル色がのる作品は多いのですが、「ルプなな」はちゃんと影色をつくるんです。
――室内はノーマルじゃない……。となるとノーマルはどこに使われているんですか。
金井:屋外です。屋外と室内で差をだしたいと言われていたので。
――でも「ルプなな」はかなり室内の芝居が多いですよね。それならどちらかというと、室内色がノーマル色にあたるのでは……。
金井 (笑)。人工灯がないから室内は基本暗いんですよね。その感じをだしたいのですが、キャラクターはきれいに見せたいので、影色を暗く落とすだけではなくて、「影っぽい色付け」にすることで影感を出したいとのことでした。
――あえて色をつくったんですね。落とすだけではダメだったわけですか。
金井:リーシェの髪がピンクなので、くすんで見えてしまうんですよ。だから色味で鮮やかにしたいとのことでした。
3DCGを駆使したお城
――ほかに「ルプなな」の美術の特徴といえる部分はありますか。
金井:お城にCGを使ったことですかね。これは弊社(草薙)の特徴でもありますが……。
――「ルプなな」はオーラスタジオさんがCG会社として別に立っていますよね。美術まわりについては草薙さんでCGをつくっていたんですか。
金井:そうです。最初に滝沢さんなり、設定の方が線を起こす。で、ここから弊社の3D担当が3Dをつくる。そのあとボードの方で色づけをする流れです。「ルプなな」は「ワンクッション3Dを使っている」点において、他作品の制作フローと違いがあると思います。
――お城の場所ごとにわざわざ模型をつくっている、みたいなことですよね。
金井:あ、もちろん全部はつくれないですよ(笑)。それをやってしまうととんでもないコストになるので。大変だったりカット数が多い場所……。たとえば何度も出てくるリーシェやアルトルトの部屋。あと、ダンスをする広間や立体階段なんかはCGを組まないと整合性がとれなくなるので……。お城の図書館もそうですね。
主城の図書室(昼)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――図書館はそれほどカット数が多くない印象ですが。
金井:そうなのですが、本をいちいち描いていくと時間がかかるので……。いや、本そのものは背景描きでやっているので結局描くんですけど(笑)。ただこのCGモデルがないと、カットごとにそこにあった本が別の形になっている、なんてことになるので。
皇都シーエンジス・主城の広間(夜)
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3DCGで制作した主城・広間
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――この広間も壮麗ですね。3話でダンスする場所ですよね。
金井:こういう場所はスケール感が問題になりやすいんです。すごく大きい広間なので、キャラクターの大きさがカットごとに違って見えやすいんですよ。普通のシーンでも部屋の高さにキャラクターが引きずられやすくて。前のカットに比べて大きい小さいがでてくるんです。3Dだとそこを正確におさえられるし、あると(アニメーターにとって)助かるだろうなと思います。あと、3DCG の精度も「ルプなな」はかなり高いんです。
――精度というと。
金井:たとえば3DCGの段階で、装飾がある程度入っている。これは珍しいんじゃないかな。他社で箱として3Dを使っていることはあると思うのですが、これほど積極的にディテールをいれこむものは、それほどないんじゃないかと。
――劇場映画だと、そういうつくり方もありますよね。
金井:ええ。ただ、1クールのテレビシリーズで、しかもこれだけやることはあまりないはずです。CGのガイドなしで描けと言われたら絶対これにはならないので。このディテールで崩れないから、合わせて描けてスケールでも迷わないんですね。
――広間で踊るアニメーションにもCGは貢献しているのでしょうか。
金井 レイアウトに貢献しているかと思います。いちいちおこし直す必要がないのは大きいので。この広間は、かなり当初から監督がつめていらっしゃったので、思いいれがある場所なんだろうと思います。
皇都の大きさは練馬区くらい
――滝沢さんが描いていていちばん難しかった設定はどこになりますか。
滝沢:苦戦したのは中庭ですね。
皇都シーエンジス・主城の広間、中庭(俯瞰)
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皇都シーエンジス・主城の広間、中庭
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――意外ですね。3話のダンスシーンのあとにでてきますが。
滝沢:まだ城の高さが定まってなかったんです。それで何度も修正しました。当初はもっと小規模な中庭だろうと思っていて。高さも同様で結構変えたつもりだったのですが「まだ足りない。もっと高く」と。
――この作業の前にご自身でシーエンジスの全景自体は描いていたのでは……。
滝沢:はい。制作は2話からはじまっていたので、シーエンジス全景は最初にとりかかった仕事でした。
皇都シーエンジス城の全景(俯瞰)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――それでもスケール感に迷ったわけですか。
滝沢:ええ。同時並行でやっていたんです。シーエンジスの「こういう建物がここにある」みたいな四角と丸でできた簡易的なものはあったのですがつめていって決まっていって。だんだんできてきたんです。
――ガルクハインが軍事国家、というところはお城のデザインをつくるにあたって意識されましたか。
滝沢:そこも難しいところなんですよ。最初に描いた王都がもうちょっといかつかったんです。要塞のイメージもあるので……。でも、「やぼったいな」と上司に言われてもう少し美しい感じに変えていったんです。考えるのが大変だったという点では、やっぱり城と町ですかね。街は練馬区くらいの大きさだという話があって。
――そんな具体的な話が(笑)
滝沢:あとは城壁内に畑があって。実際にある国と見比べながら、川の形なんかも考えました。川も難しかったですね……。似たような、要塞国家というか、城が上壁に囲まれた場所のイメージを下敷きにしつつ描いて、参考を見ながらやっていました。
ステンドグラスの光に照らされて
――お城のなかの階段は立体的でとても印象に残っています。
主城と離宮をつなぐ廊下(夕)
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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金井:ここは難しかったですね……。単純に奥手前があることが難しかった理由です。装飾がいっぱい入っているので、手前と同じように奥側を描いてしまうと遠近感がなくなるんですよ。そこはカットにごとに調整をしないといけなくて。そのあたりはボード内でもやっていますし、作業しやすいように、本編でもある程度(レイヤーとして)手前の手すり、柱側と奥の階段側を分けられるような構造にしているんですよね。奥側でアルノルトが軍務伯と話をしていて、手前側でリーシェが芝居をするから、あえてこういう構造にしたと監督からうかがっていたんです。
――なるほど。
金井:同じ光源の中で前後して物があるだけで、ディテールはどっちもみっちり入っているので前後感が出しづらいなとは思っていましたね(笑)
――この階段は第2キービジュアルにも使われていますよね。
金井:ええ。これも難しかったです。この場所って基本的に前面側が南側なので、手前から光が入るはずなんです。それで奥になるに従って暗めになっている背景を本番ボードとしては描いているんですよね。で、キービジュアル第2弾では上にアルノルトがいるので、そのままやっちゃうとアルノルトが暗くなるんですよ。そうするとキャラが濁るので……。結局紆余曲折あって、アルノルト側も明るく描いてくださいとお話があって、そのかたちで落ち着いています。
第2キービジュアル
(C)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会
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――ほかに印象的な場所としては、4、5話の礼拝堂もありますね。
金井 ここも監督がこだわられたところでした。テオドール、リーシェ、アルノルトがこのあたりに立って芝居をするので、ステンドグラスからの入射光で意図的に光を当てる、当てないがあったところです。ただこの作品に限らず、モチーフになる礼拝堂や教会関係って宗教的なものなので、装飾にどうしてもそれが入りこみやすいんですよ。そこを全部排除してやるので、気をつかったところでもあります。
――たしかに難しいですよね。
金井:あと、キャラクターは基本的に絨毯(じゅうたん)の上で芝居をするので、「そこから外れたところはテカらせてもいいよ」と。情報量を増やしたくてツルツルさせています。
これもアイレベルにあるところに何かしら入っているんですよね。とくにここは他に比べて細かいです。あとキャラクター同士で会話をするときに、顔アップだけじゃなくて俯瞰などで床が見えるシーンが多かったので、俯瞰で見せたときに印象的にならないとまずいかなと反射を入れてたりもしているし、絨毯も頑張ったところです。あとはステンドグラスもそうですね。このあたりも自分1人でやっているわけじゃなくて、カットによって頼んでいるのですが、ここのステンドグラスはもうガッツリ担当の方にお願いして。
――宗教にはしないにしても、ディテールは必要ですしね。
金井:そうなんです。ここが抜けてしまうとただの格子ガラスになってしまうからね。ここは構造と色味、別々に参考写真があったんですよ。
――そういうパターンもあるんですね。
金井:ただ月明かりの色できれいにキャラクターを見せるという話だったので、あまりステンドグラスの色が反映されてもまずいんですよね。カットによっては月明かりのきれいさを立たせたつもりなので、そこが視聴者の方に印象的に見えるといいなと思っていました。
――最後にお二人が「ルプなな」に携わって、得たものがあればお聞かせください。
金井:小物の資料がすごく溜まりました。
――具体的ですね(笑)。アーカイブ的に今後活用していきたいと。
金井:ものすごい量になりましたからね。さきほどもお話ししましたが、「ルプなな」って、東洋の文化を意図的にいれなかったんですよ。完全に西洋もので固めているので、東洋ものが混じらないように気をつけていて。この集めてから弾く作業が意外と大変なんですよね。それを今回はたくさんやれたので、このアーカイブを「次のループ」に活かしたいと思っています(笑)
滝沢:自分は今回、初担当だったこともあって、全部が大変で。監督からもかなりリテイクが出ていて、最初部屋を描いて出したら「もうちょっと豪華に」と何回かあって。ただ、描きなおすたびにやっぱりよくなるんですよ。最初は「スカスカだな」という印象がたしかにあったので。柱が足りないと言われたら足すとやっぱり違う。監督は空間が見えているんだと、そのとき思ったのですが……。
「ルプなな」に揉まれることで、自分の力が少しあがったかなと思えるんです。だからだと思うのですが、「ルプなな」のあとに別の担当作品をもったとき、だいぶ楽に感じたんですよね(笑)
「ルプなな」リレーインタビュー
[筆者紹介]
揚田 カツオ(アゲタ カツオ) テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビューの取材・構成を担当。
作品情報
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