2015年9月18日（金）20:00

「攻殻機動隊」25周年リレーインタビュー野村和也監督前編「攻殻」のムックを読んでアニメ業界に

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「攻殻機動隊」関係者に制作秘話を聞くリレーインタビュー第4回は、「攻殻機動隊新劇場版」の野村和也監督。前編では、「攻殻」のムックを読んでアニメ業界に入ることを決意したエピソードや、「新劇場版」の監督を手がけることになった意外な経緯について話を聞いた。

野村監督がアニメ業界を志したのは高校生の頃。もともとはイラストレーター志望だったが、1冊の本を手にとってアニメーターという職業を意識するようになる。

「すごい田舎に住んでいたものですから、絵に関する情報が全然なかったんですよね。そんな時、学校の近くにある本屋さんで『HOW to ART』という本をみつけたんです。有名なイラストレーターが作品を描く過程を、下描きから完成まで追っていく特集号でした。僕は結城信輝さん、いのまたむつみさんなどが好きだったんですが、その本に載っている方々の経歴をみたら、元アニメ関係者の方が多かったんですよ。それで、アニメーターになれば絵が上手くなるのではないかと興味を覚えたんです」

もう1冊、野村監督がアニメ業界に入ることを決定づけた本がある。「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のムック（「THE ANALYSIS OF 攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」講談社刊）だ。友人と待ち合わせをした本屋で偶然見かけ、映画を見ていないのに手にとったのだという。

「青い背表紙に赤字で『攻殻機動隊』とあって、『このかっこいいタイトルはなんだ？』と思ったら、アニメのムック本だったんです。中を見たら、ものすごく上手い絵がたくさん描いてあって衝撃を受けました。最初はCGかなと思ったんですが、買って家で読んだら全て人が手で描いたものだと知ってさらに驚いて……。それが決定打となってアニメ業界に入ってみようと思いました」

映画本編を見たのは、上京して専門学校に入学してから。ムックを手にして、数年後のことだった。

「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」場面カット

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「ムックを何度も読み返していたので、『ああ、描いてあるままだ』とまず思いました（笑）。とにかく映像がかっこよかったですね。個人的には、素子が自分の存在意義に疑問を抱いているところが、当時の自分の精神状態と重なるところがありました。彼女がサイボーグから別の存在へとシフトしていくのが、自分がアニメ業界でチャレンジしてみようと上京したのと重なるというか。ムックを読みながら、自分なりの勝手な解釈を色々していましたね」

専門学校卒業後は、スタジオ4℃に在籍。約2年の動画経験を経て原画を担当するようになり、様々な作品で腕をふるった。

「最初は入って1年で辞めるつもりだったんです。画力が身についたらスタジオを抜けてイラストレーターを目指そうと思っていたんですが、仕事がすごく楽しくなってきたんですよね。『もう少しやってみよう』と思いながら続けていたら、7年ほど経っていました」

4℃在籍時代に、原画と作画監督を手がけていた「魔法少女隊アルス」の番外編「魔法少女隊アルス THE ADVENTURE」で初演出・絵コンテを経験。その後、共通のスタッフを経由して、「電脳コイル」の演出をしてくれる人を探しているという話が野村監督のもとに舞い込む。

「『電脳コイル』を監督した磯（光雄）さんは、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で銃器設定を担当されていますよね。僕はムックで銃器の絵を見たときから、これを描いた人は天才だと思っていたんですよ。そんな磯さんとお仕事ができるのだったら是非と思って、『コイル』の現場に入らせていただきました。井上俊之さんのような大ベテランの方から若手のスタッフまで、色々な人と一緒に仕事ができて楽しかったですね。ここで出会った同世代のアニメーターや演出家とは、今でもたまに会っています」