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特集・コラム 2021年7月3日(土)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第34回 終戦中二病と歴史の回路図

「ゴジラ」ポスター

「ゴジラ」ポスター

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菊池俊輔さんが(89歳没)4月24日、小林亜星さんが5月30日(88歳没)と、1960年代からテレビアニメの音楽を支えてきた作曲家があいついで亡くなられた。非常に寂しさを覚えながら、代表曲をベスト盤で聴き直している日々である。
 さて今回はこれを契機に、ずっと気にしてきた話をする。アニメ文化の基礎を築いた方々には共通点がある。生まれ年が昭和6~7年(西暦1931~1932年)あたりに集中しているのである。3月15日に亡くなったアニメーターの大塚康生さんも89歳没である。
 私事で恐縮だが、テレビアニメ第一世代と呼ばれる筆者の実父もまた昭和7年生まれである。そしてこの20年近くの取材対象者に同年代が集中していて、気になり始めた。「宇宙戦艦ヤマト」(74)の効果音を担当した柏原満さん、よみうりテレビ側プロデューサーの佐野寿七さん(たぶん昭和7年生まれにちなんだ命名)、「ウルトラマン」(66)でバルタン星人生みの親となった飯島敏宏監督、他にもまだまだいると思うが、昭和7年生まれは実に多い。
 中でも同年生まれの脚本家・辻真先さんからNHK第一期生時代の話をSF大会で聞いたとき、絶対に何かあると考えるようになった。そして終戦の昭和20年から引き算をして、「あっ!」と思った。昭和7年なら13歳のはずだ(生まれ月にもよるが)。ティーンエイジャーの始まり、近年なら「中二病」とも呼ばれる、心身ともに子どもから大人に激変する嵐が襲い始める年齢なのだ。8月15日までは鬼畜米英、本土決戦などと大人たちから強制され圧迫され、死を直視しながら生きてきた。なのにいきなり民主主義へ大転換が起きた。転向した大人たちを疑い、一方で旧弊なものは焼け野原となり、貧しく先が分からない中に、再起動の解放感もある。大状況と心境と、どちらも激変の嵐である。
 失礼な呼称で恐縮なのだが、そこで決定的なキーワード「終戦中二病」を思いついた。開拓者となった人びとに「終戦中二病」を経たマインドが共通的に宿っているからこそ、新しい価値観を求める人びとが、テレビ時代の黎明期に大勢出たのではないか。なぜならば、テレビ自体も映画やラジオなど先行メディアから下に見られつつ始まったからだ。
 アメリカによる占領が始まり、進駐軍がやってくる。兵士たちとともにアメリカ文化が一気に大量輸入された。小林亜星さんの追悼番組でもご本人がはっきりと語ってた。中学生のころからバンドを結成し、そして進駐軍を相手に演奏していたと。黎明期のテレビ番組で音楽を作曲する人、プレイヤーにもジャズ系が多い。当時のテレビはオンエアされれば空中拡散されておしまいだ。そんな大量消費と即興性もあるジャズは相性が良い。広まったジャズは、やがて生演奏で日本のオーディエンスにも定着する。
 戦後文化をステージアップさせたテレビ放送の本格化もまた、「終戦中二病」に同期するタイムフレームと関係が深い。1952年(昭和27年)には進駐軍が引き上げ、1953年(昭和28年)にNHKと日本テレビがテレビ放送をスタートさせる。翌1954年(昭和29年)は「七人の侍」「ゴジラ」が立て続けに公開され、日本映画が「娯楽の王様」の位置を確立して黄金期へ移行する。その「ゴジラ」にはまだ超高価だったテレビ放送が「時代の最先端」として登場している。この昭和29年は「昭和7年生まれは22歳」なのだ。大卒なら新人、高卒なら仕事を覚えて独り立ちし始めるとき、眼前に未開の荒野があったら……。
 こうした因果関係を個々人の精神性や人間関係ではなく「歴史の回路図」によって読解してみたい。筆者は1980年代、デジタル回路のハードウェア設計者だった。パソコンを凝縮したような通信機器まるごとを設計していた。ブロック図で全体構成を考え、CPUをクロックで回し、さまざまな信号を接続するときにタイムチャートを描く。アニメのタイムシートと同様、複数の信号に条件設定をして、何かタイミングが揃ったとき論理演算によって所定の結果が起きるようにする。変化を時間でとらえて信号で整理し、次の大きな変化をデザインして論理で結ぶ。「終戦中二病」の考察を経て、「この手法は歴史把握でも可能だ」と気づいたのだ。
 そのひとつの応用例が「SFとアニメの関係」である。1959年にはテレビ受像器の普及、少年週刊誌の創刊に加えて、もうひとつ大きな事件があった。「S-Fマガジン」の創刊だ。高校生のころSFファンとして訪問した「宇宙戦艦ヤマト」の制作現場で、SFファンでもあったチーフ・ディレクターの石黒昇さん(昭和13年生まれ)から聞いた話も、これに絡んでいる。「とにかく創刊号には選びぬかれた傑作短編しか掲載されてなくて、どれを読んでも面白かった。それがものすごく衝撃的でSFに興味を覚えた」というのだ。
 この話がその後40数年間、ずっと引っかかっていた。日本におけるSFの普及、SFファンの増加は1960年代に大きく進展するが、それは高度成長期の科学時代を背景に“目利き”が厳選した作品だけが次から次へと翻訳された“濃縮効果”が生んだものということだ。そのSF文化もまた、アメリカ駐留軍が読み捨て、神田の古書店に売却したペーパーバックの山からスタートしたものだった。
 厳選された小説群に触発され、大量に生まれた日本SF作家は、SF小説の市場が立ち上がっていない時期、当時急拡大していた「児童向け市場」に参入する。作家たち(個々は略す)は学習雑誌に加えて、1963年(昭和38年)の「鉄腕アトム」で急拡大したテレビアニメへ参加する。そしてアメリカSFには、未知の世界へ挑む開拓精神が宿っていた。
 こうして無料のテレビで大衆化が進んだアニメにはSF作品が多くなり、1970年代にSF小説を買いあさるSFファンを多く生み出す土壌もできる。これは戦後文化、“米→日本”の輸入文化が濃縮され、その濃縮が連鎖を生んだ果てにあることだ。文化にも電流のような流れがあるならば、そこに“濃縮効果”が起き得るし、歴史に構造があるならば、副次的に次の“濃縮効果”に引き金となって、連鎖反応を生み出し得る。その全体像はタイムチャート的に整理可能なものなのだ。
 こうして1970年代には(ロボットアニメが多かったとはいえ)SF作品が多くなる。無国籍性、越境性を宿したSFアニメは、1980年代になるとビデオテープの個人録画を経由し、米国のSFファン(Sci-Fiファン)の注目を集めるようになる。1980年代も後半になってコンピュサーブでネット・コミュニケーションが台頭する時期、矢印が逆向きの“米←日本”が拡大する。日本製アニメの中でも映画「AKIRA」やOVA中心の先鋭的なSF作品中心がアメリカのファンを驚かせるが、これは黎明期のSF文化に起きた“濃縮効果”と同じく、目利きが厳選して起きたことなのだ。
 こうして“米←→日本”の運動は、往還へと高まっていった。つまりこれがワールドワイド化したのが90年代半ば、当初は“Japanimation”と呼ばれ、やがてすぐ日本での呼称を尊重して“Anime”になったプロセスの正体なのである。
 こうした考察で大事なことは「ベスト・オブ・ベスト」の選抜されたものが文化伝搬をドライブする中で起きる“濃縮効果”のメカニズム、そして“伝道”の役割だ。こうした構造を無視して「日本のアニメの中にはなにかある」「作家にはメッセージがある」と決めつけ、むやみに探し求めても、半端な認識に留まってしまうのではないか。
 だから選にもれた分厚い作品群、その全貌が生み出す“場の効果”と“圧”の分析が重要だと考えている。そしてエネルギーが通過する際には、文化的フィルターが介在するのも常だ。そのフィルターの網目も読み解く必要がある。
 ともあれ1980年代、1990年代とアニメ業界ではなく、IT業界で装置設計やシステム設計、プロトコルやインタフェースの仕事を20年近くやってた筆者にしか出来ないことが確実にある。これからはシステム、アーキテクチャ、インアウトの流れを意識した“回路図”として歴史の因果を読み解いていきたい。その図中、どことどこにどんな“濃縮効果”が起きて、次の時代をドライブしているのか。今回はコラム用として随所を略したが、その詳細を解き明かすのが、現在のライフワークである(一部敬称略)。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

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