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特集・コラム 2022年5月3日(火)19:00

【氷川教授の「アニメに歴史あり」】第39回 空想映像キャラクターの歴史的因果

(C) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C) 円谷プロ

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映画「シン・ウルトラマン」が5月13日から全国公開される。企画・脚本は庵野秀明、監督は樋口真嗣で、新しい映像感覚を満載した特報と予告が期待をそそる。
 公開が近づく4月上旬、日本マクドナルドが「シン・ウルトラマン」とコラボした新商品「シン・タツタ 宮崎名物チキン南蛮タルタル」が話題を呼んだ。日本に同社が展開し始めた1971年にテレビ特撮「帰ってきたウルトラマン」がスタートしている。昨年50周年を迎えた同期であり、主役はかつて「新マン」とも呼ばれた(現在の公式呼称はウルトラマンジャック)。そんなダブルミーニングが嬉しい。
 特撮文化が深く大衆的に根づいた結果のひとつであろう。この盛況はちょうど10年前、「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」からのV字回復によるものと認識している。そのころの特撮文化は、継続しているもののアニメほど拡がりはなく、また3DCGの台頭に押されて技術的にも衰退基調だった。しかしそこで「特撮」が文化・芸術に位置づけ直されることで大衆に再認知され、現在に至ったのである。
 その当事者・庵野秀明は、実作品でも「特撮の価値」を示し続けている。「シン・ゴジラ」(16)、「シン・ウルトラマン」(22)、「シン・仮面ライダー」(23年予定)は、「原点」を問い直す姿勢だ。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(21)でも、ミニチュア特撮の技法を作中に採用するなど、閉塞した回顧に陥らない「可能性」「発展」を見すえている点に注目したい。
 これら「シン」を冠した作品は、東宝、東映、円谷プロダクション、カラーと本来はライバル同士の企業を結びつけ、2月14日にはコラボレーション企画「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」(SJHU)が発表された。庵野秀明の発案ではなく内容にコミットもしないようで、具体案は未発表ではあるものの、この並びに好感を抱いた。なぜならば、この4大空想キャラクターによって「日本の空想映像史」が語れるからである。
 自分が大学で教えている「歴史の流れ」に近いものも感じるため、ここではその「読解法」を述べてみたい。

映画の誕生とほぼ同時期、「特撮」は「トリック撮影」として発展を開始した。マジシャン出身のジョルジュ・メリエスが、映画に「現実を変容できる特性」を見いだしたのである。これが映画を単なる「動画像の記録装置」から「人間の空想力をイメージとして具現化する新しい絵筆」へと発展させるきっかけとなった。技法は編集による人間の消失、人形への置き換えなど「時間の変容」と、多重露光による首の切断、巨大化、分身など「空間の変容」に二分される。この「積極的な加工」が創作力を喚起したのだった。
 しかし特撮はスターの顔や物語を見せる劇映画の「裏方」へと退いていく。それを大きく逆転させたのは1933年の「キング・コング」であった。「空想特撮キャラクター」の誕生である。
 日本でも「特撮キャラクター」の試みは多くあったが、「以前以後」の刻み目を入れた最大の存在は、54年の「ゴジラ」である。コングは巨大な類人猿だから、ギリギリ「いるかもしれない」と「現実に接着」している。しかしゴジラは「空想力」が生みだした超常の生物で、「映画の空想世界」にしか存在し得ない。特に原水爆実験の影響による背びれの発光、口から火炎を吐くなど未知なる空想力が加わり、科学技術を前提としつつ戦時技術が生んだ怪物という点が画期的だった。「現実の反映とそこからの飛躍」を可能とする「日本製空想キャラクターの原点」に位置づけられるのだ。
 次は66年に始まったテレビ特撮「ウルトラマン」だ。これは「テレビ時代」「宇宙時代」と、科学文明礼賛を基調とした高度成長期の申し子と言っていい。「ゴジラ」をきっかけに特技監督に昇格し、映画の黄金時代を支えた円谷英二と空想科学映画のNEXT的存在でもある。事実、円谷英二はこの監修にあたり円谷プロダクションを指揮し、長男・円谷一らがメインスタッフとなった。「次代」を志向したシリーズの点でも特筆できる。
 内容的にもさらなる飛躍が織りこまれた。M78星雲から来た宇宙人が事故を起こした結果、地球人ハヤタ隊員と融合し、銀色の巨人ウルトラマンとして怪獣たちと戦う。大量消費時代のテレビの世界に、「毎週新怪獣が登場してウルトラマンが必殺技で倒す」なる格闘技的なフォーマットを開拓した功績が、特に大きい。テレビアニメの世界も「宇宙」「遊星」の文字がタイトルを染めていた宇宙ブームとも連動し、現実世界では69年に月面へ人類を到達させたアポロ計画が進行中であった。
 「希望」「未来像」が貫かれている点も見逃せない。ベトナム戦争が泥沼化し、学生運動が起き始めているが、まったく異質な宇宙人と地球人も手を取り合えるかもしれない、そんな「理想」が美しい。これは「シン・ウルトラマン」のキャッチコピー「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」にも反映されている。逆に「好きになってもらえる資格はあるのか」を自問自答させる要素もあり、その批評性が大事である。
 71年の「仮面ライダー」(石ノ森章太郎原作)は、テレビ特撮の始祖「月光仮面」への原点回帰であると同時に、「ウルトラマン」のダウンサイズでもあった。等身大ヒーローを採用し、全身が特殊造形の怪獣ではなく一部をタイツで流用した「怪人」と新概念を打ち出し、新時代の「元祖」となった。
 費用と専門家を要する特撮は控えめで、ミニチュアを飾り込んだステージではなく、東京都下のベッドタウンを開発中の造成地のロケ中心で、泥だらけの格闘アクションを徹底する。子どもたちは「変身ごっこ」に没頭し、さらにローコストでヒーロー番組が作れると知った大人たちは続々と新番組を立ち上げ、「変身ブーム」が発生した。
 このように「歴史」は「因果の連鎖」であり「バトンリレー」を形成する。「原因」が「結果」を生み、その「結果」が新たな「原因」となって次代へバトンを受け渡す。ゼロから立ち上がったものは「認知の壁」に阻まれ、メガヒットや長期継続は至難なのだ。
 では残った「エヴァンゲリオンシリーズ」(95年初出)は、この歴史的検証でどういう役割を果たしているか。異論を承知で言えば「ロボットアニメ代表」と考えている。
 「仮面ライダー」が起爆した「変身ブーム」の時期に「巨大ロボットもの」が立ち上がる。72年末に放送開始した「マジンガーZ」(永井豪原作)は、その玩具も含めて一大ブームを巻き起こし、やがて特撮ヒーロー人気を上書きしていく。ヒットの主因は「人間が乗りこんでロボットを操縦する」点にあった。これは「変身」の亜種と認知されている。事実、搭乗後のロボットは主人公の肉体の代わりを果たし、格闘している。
 この展開が79年に「機動戦士ガンダム」を生み出し、アニメ作家が物語やキャラクターを生み出すオリジナル作品の発展を招いた。同時にアニメの視聴者層も子どもから青年、成人へと拡大していって現在の繁栄に至る。その中でも「エヴァ」は学者、デザイナー、ミュージシャンを経て社会的認知のジャンプアップを果たした。
 設定としてもウルトラマン的な生身の巨人にロボット的な装甲をつけ、エントリープラグで撃ち込まれた主人公が操縦する、「継承と発展」を意識したものであり、「全部入り」のようにも見える。ここで述べたような「歴史のバトンリレー」のアンカーとして見ることができるし、アニメと特撮をブリッジした存在としても歴史的意義は大きい。

物事の本質は分類し、細分化し、深掘りすることだけで見つかるものではない。時にあえてフォーカスの精度を甘くし、それでも浮き立ってくる特徴が大事だ。それを一見「異なるもの」と対比することで、気づきにくかった本質が喚起される。
 来る24年には初代の「ゴジラ」から70年となる。「あれもあった、これもあった」とパーツを細かく列記するだけでは、歴史を語ったことにならない。人体の血管であれば、どんな大動脈や大静脈があり得るのか、そこからどんな血流のネットワークが描けるのか、そろそろ考える時期ではないか。
 「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」(SJHU)と、その作品群の相互関係は、そんな時期にさまざまなヒントをあたえてくれるものなのである(文中敬称略)。

追記:去る4月28日、庵野秀明監督が「令和4年春の紫綬褒章」を受章されたことが発表されました。おめでとうございます。株式会社カラー公式サイト掲載のメッセージには「これからもアニメや特撮文化に御恩返し出来る様、面白いアニメや特撮映像作りに携わり、アーカイブ事業を推し進めていこうと思います」とあります。今後のご活動に期待しつつ、氷川も直接間接を問わずご助力したいと思います。

氷川 竜介

氷川教授の「アニメに歴史あり」

[筆者紹介]
氷川 竜介(ヒカワ リュウスケ)
1958年生まれ。アニメ・特撮研究家、明治大学大学院特任教授。アニメ専門月刊誌創刊前年にデビューして41年。東京工業大学を卒業後、電機系メーカーで通信装置のエンジニアを経て文筆専業に。メディア芸術祭、毎日映画コンクールなどのアニメーション部門で審査委員を歴任。

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