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特集・コラム 2023年5月13日(土)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第26回 すべての映画は“アニメ”になった

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昨年2022年12月、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」(以下「アバター2」)の凄まじい映像を見て、実写とアニメの違いは一体どこにあるのだろうとあらためて考えさせられた。
 09年に公開された第1作は、主人公の元兵士ジェイクが地球から遠く離れた神秘の星パンドラに潜入するため、自分の分身となる新たな肉体「アバター」を手に入れ、神聖な森で暮らす先住民のナヴィと交流するなかで人類とナヴィの戦争に巻きこまれていく物語だった。
 人間側のキャラクターは実写、先住民のナヴィとアバターは3DCGで描かれ、肌が青くて人間とはちょっと違うナヴィの造型と3DCGによる違和感で、観客は最初ナヴィを気味悪く感じてしまう。それが、主人公の目をとおしてナヴィたちの暮らしぶりを疑似体験するなかで感情移入し、主人公と結ばれる女性のナヴィ・ネイティリが次第に魅力的に見えてくる。乱暴に言うと実写がシームレスにアニメになっていくような感じがあって、実写の主人公が3DCGで描かれたアニメの世界のキャラクターに恋して住人になっていく様子が、途方もない制作費をかけた圧巻の映像で表現されているように筆者には見えた。
 「アバター2」では、ナヴィに転生したジェイクに子どもが生まれていて、海の部族が暮らす海辺の集落が主な舞台となる。第1作と比べると実写で描かれる人間のパートが非常に少なく、大半がCGと思われる同作は3DCGアニメと言ってもいいのではないかと思ってしまう。とくに水の表現が素晴らしく、通常よりも1秒あたりのコマ数を多くしたハイフレームレート(HFR)と3D上映による立体視で、本物の海より海らしい映像美が味わえる。

押井守監督の予言

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」などで知られる押井守監督は、20年以上前から実写とアニメの境界がなくなるであろうことを指摘していて、そのものズバリ「すべての映画はアニメになる」というタイトルの著書もある。自身が撮った実写映画「アヴァロン」(01年公開)の制作を通してCGとアニメの関係について考えることが幾つもあったという押井監督は、「映画のデジタル化は、映画をコントロールできる領域を飛躍的に広める」「そこには『意図のない絵』は存在しなくなる」「その意図に沿ってどこまで『絵』を『コントロールしきる技術』をもっているか否かが重要になる」「(※意図に沿って絵をコントロールする技術は)アニメは実写よりもはるかに優位な蓄積がある。だから、実写もアニメになるしかない」とコラム集「これがぼくの回答である。 1995-2004」で記している。
 押井監督の指摘を筆者なりに解釈すると、映像がデジタルになることで実写もアニメと同じように変更可能な1コマ1コマの絵の連続として考えられるようになり、その1コマの絵には作り手の意思が完全に投影できる。例えば企業が莫大な制作費をかけてつくっているわずか15秒のテレビCMは、450枚の静止画(テレビは毎秒30フレーム)の連続でできており、1コマの1枚の絵にどんな情報をいれるかにまでこだわることができる。長尺の実写映画でもそれと同じことができるようになり、人物から背景まで何もかも人為的に「見せたい絵」をつくることができてしまう。その弊害としてフェイク動画も生まれ、ネットの実写映像が本物ではないかもしれないというリテラシーが必要になってきている。
 「アバター2」ほど明らかにCGと分かる作品でなくても、ハリウッド映画の撮影メイキングで、グリーンバックの何もないところで俳優が迫真の演技をしているのを見たことがある人は多いと思う。一見実写に見える映像も実は大半がCGだったということはまったく珍しくなくなった。そのため、どんなに凄いアクションシーンを見ても、どうせCGで上手くやっているんだろうと不思議と冷めてしまう現象もおきていて、CGではないことをあえてうたうような作品もでてきている。けれど、実際は実写・CGに関わらず、凄い映像が生まれるかげには作り手の想像力とそれを具現化する途方もない尽力があるのだと思う。

「アバター2」と「THE FIRST SLAM DUNK」の共通点

昨年12月からロングラン公開中のアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、これまでに体験したことがないぐらいバスケットボールの臨場感があって、ベクトルは違うものの「こんな映像作品見たことない!」と「アバター2」と同じぐらい衝撃をうけた。同作の試合部分は主にセルルックと呼ばれる手描きアニメ風の3DCGで制作されており、選手の動きは実際のバスケの様子をモーションキャプチャ(※動きをデジタル的に記録する技術)したものが基になっている。そのため手描きアニメで表現する場合は大変な手間がかかる、選手たちが終始動く様子やちょっとした仕草、メインのキャラクターの後ろにいる選手の細かい動きまで描かれていて、原作・監督の井上雄彦氏が映画制作の“義務”として挙げていた「リアルなバスケの動きを表現する」ことが非常に高いレベルで実現できている。
 バスケのリアルな動きにモーションキャプチャと3DCGを使っていると聞くと、ハリウッド映画のときと同じようにCGの技術で何とかしているのだろうと考えてしまいがちだが、公式サイトに掲載されているスタッフインタビューや、書籍「THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE」を読むと、年単位の試行錯誤の積み重ねと、井上氏自身が大量の絵を描くことで今回の映像が実現できていることが分かる。また、「シン・ゴジラ」でも用いられていたプリビズという手法で、仮の映像をもとに大胆なシーンの追加と削除を繰り返すかたちで制作が進められており、まず絵コンテで全体の設計図を決めこむ通常のアニメ制作とは異なる実写的なスタイルが採られているところも興味深い。
 「アバター2」では動きだけでなく、「パフォーマンスキャプチャ」と呼ばれる表情ふくめた俳優の演技全体をデータ化する技術が使われているが、最終的な映像にするためにCGクリエイターによる膨大な仕事が必要だったことはエンドロールのクレジットをみれば想像に難くない。両作とも最終的なルックが違うだけで、監督が描きたいものをあらゆる手段を用いて作りあげているところは共通していて、制作期間が長いところも似ている。
 実写もアニメも、ある方向でこれまでにない極限のものを作ろうとすると実写はアニメ的な、アニメは実写的なアプローチがなされていって、最終的に両者の区別はつかなくなってしまうのではないか。規格外の凄い作品である「アバター2」と「THE FIRST SLAM DUNK」を見て、押井監督の予言が実感として腑に落ちた感覚があった。(「大阪保険医雑誌」23年2月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

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